■煙と一緒に空気も吸う
ただし換気機能があっても、窓を開け忘れたり、換気扇などの機械を稼働させなければ、基準を満たせない。ところが焼き肉店では、無煙ロースターを使用すると自動的に部屋の空気が入れ替わる。無煙ロースターメーカー「シンポ」の営業管理課長、堀隆一さんはこう解説する。
「無煙ロースターは網の周辺にある丸い穴やスリットから煙を吸い込むのと同時に、店の空気も吸っています。吸気口から吸われた煙や空気は、床下に這わせた排気ダクトを流れて、店外に出ていきます。」
シンポの試算によると、23坪の客席(容積200立方メートル)で、同社の無煙ロースターを11台稼働させた場合の1時間あたりの排気能力は3300立方メートル。1時間あたり16.5回、3分38秒に1回、店内の空気を入れ替えることになる。
かつては焼き肉店に行けば、服や髪の毛ににおいがつき、これを敬遠する人も多かった。焼き肉業界はこの問題を解決して幅広い客層の取り込みに成功し、結果的にコロナ禍に求められる「換気のよい店」という条件も満たした。
もちろん、換気だけではコロナを防げない。人との距離が近ければ飛沫が飛ぶ。焼き肉店でも手洗いや消毒、食事中の会話自粛など、一般的な注意は必要だ。前出の倉渕教授は言う。
「換気がよければ空気中のエアロゾルが希釈できますが、室温も下がり飛沫が広がりやすい環境になりがち。自宅などでは換気に加えて、抗ウイルスフィルターを付けた空気清浄機を置くのも対策の一つです」
(ライター・井上有紀子)
※AERA 2020年12月14日号