コメディアンの小松政夫さんが12月7日、肝細胞がんのため亡くなった。78歳だった。コラムニストの石原壮一郎さんが別れの言葉を送る。
■76歳でも将来の夢を語っていた
偉大な「コメディアン」が、またひとり旅立ちました。昨年秋も舞台「うつつ~小松政夫の大生前葬~」で、老コメディアン「小松政夫」を演じ、淀川長治さんの物まねなど往年のギャグを繰り出しつつ、楽しくも切ない世界を作り上げていました。
2年前、本誌でインタビューをしました。印象に残っているのは「私はずっと植木等の弟子です」という言葉。オヤジと呼んでいた植木等さんの話をする小松さんは、懐かしそうで楽しそうで、そして誇らしげでした。
「植木さんと天国で再会したら、どんな話を?」 とぶしつけに尋ねたら、
「オヤジさんが亡くなった80歳を超えてから会いそうだから、『私のほうが先輩ですからね』って威張ってやろうかな」。
今ごろ植木さんに「あわてやがって。先輩になれなかったじゃねえか」と、残念そうに言われているでしょうか。
俳優としての評価も高かった小松さんですが、「自分はあくまでコメディアン」という強い自負がありました。
「歌舞伎や新派の所作や声、踊りにタップに物まね、何でもできるのがコメディアン。お客を笑わせることはもちろん、泣かせることもできる」
このときは76歳。「まだまだ自分の役割があるはず」と、“将来の夢”を語ってくれました。30年以上前に演じた中年男の一人芝居を老人でやりたい、2016年に出したCDをヒットさせて紅白歌合戦に……。
「死ぬことは怖くない。いつ死んでもいいと思ってるけど、舞台に立てるうちは立っていたいな。演じながらわざと息をハーハーさせると、笑いが起きるし、声援が飛んでくる。これはうれしい。年を取ったからできることや、この年ならではのいいこともたくさんあるよ」
年輪を重ねて新たな境地に到達した小松さんの笑いは、今の殺伐とした日本にこそ必要だったかもしれません。太い眉毛がピクピク動くあの顔を浮かべながら、笑って見送らせてください。
「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」
(構成:本誌・鮎川哲也、太田サトル、村井重俊/吉川明子)
※週刊朝日 2020年12月25日号より抜粋