落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「2020」。
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今年、私は42歳。思えば後厄だった。前厄、本厄の厄除け祈願はしたのだが、後厄は「まぁいいか」と無精して行かずじまい。その結果、今年はこの世界の惨状である。「もうホントすまん、世界」としか言いようがない。誇大妄想? いやいや、世界中の厄除け忘れた厄年ピープルの厄が集まってコロナ禍に繋がったのかもしれん。何がどうリンクしてるかわからない。
今年の手帳を見返してみる。1月はいつもの平和なお正月だった。元日から超満員の寄席を掛け持ちで出演し、1日3、4席の高座。1月4日は新日本プロレスの東京ドーム興行に行ったっけ。もちろんフルハウス、友達の漫才師・ロケット団の三浦くんとビールを飲んだなぁ。トイレに何回行ったかわからない。客席もトイレも回転ドアも帰りの丸ノ内線も、振り返れば密密密密。『密』なんて言い様、このときは無かった。
2月は地方公演が続いた。金沢、神戸、松山、高松、徳島、岩国、足利、岸和田、大阪、島田、高岡……と、ここまでは無事に開催されたのだが、世界中に感染者が増加し、日本もダイヤモンド・プリンセス号のクラスター等でだんだんざわついてきた。すると、関東近郊の独演会の主催者から「申し訳ありませんが、延期ということで……」というメール。自治体主催なので慎重にならざるをえないようで、その会は7月に延期となる(それもまた延期になり2021年4月開催予定になった)。
そこから「中止」「延期」の電話がひっきりなしにかかってくるようになった。着信音が鳴るとこちらから「中止? 延期?」と半笑いで尋ねるほどに。まれに「いや、決行です!」と言われると「まじか!?」と驚くという……。落語の仕事は基本、契約書が存在しないものが多い。でも完全歩合の商売。キャンセルの連鎖では生きていけない。『キャンセル料』なるものが、あるのかないのかも分からず恐る恐る「キャンセル料とか……貰えたりしませんかね~」なんて切り出してみた。「そうですね……検討します」と、ギャラの○%を振り込んでくれる主催者もいた。