自宅介護の虐待問題などに取り組むNPO法人「となりのかいご」(神奈川県伊勢原市)の川内潤代表理事によれば、介護を担うのは女性が7割、男性が3割。家族による介護は圧倒的に女性に支えられているものの、虐待は一転して、男性が起こしやすい状況だ。
「社会で仕事をしてきた男性は、目標に向かって努力すれば成果が上がるという成功体験を持つ。問題は、家族の介護にまで同じ論理を持ち込んでしまう点。うまくいかないと、『こんなに努力しているのになぜ期待に応えないのか』とイライラして怒鳴ったり手を上げたりする」(川内さん)
虐待のなかで全体の6割を占めるのは、殴る蹴るといった“身体的虐待”。無視したり、介護や世話を放棄したりする“ネグレクト”や、親の貯金などを子どもが勝手に使う“経済的虐待”も深刻だ。
息子からの虐待が圧倒的に多いのはなぜか。
「息子にとって母親の存在は、何歳になっても心の支えである“安全基地”。それだけに、しっかり者で働き者だった母親が衰えていく様子を直視するのは、耐えられない苦しみなのです」
川内さんは、母親への愛情が根底にあるためだと説明する。
例えば、理知的な母親に戻ってほしいからと、「脳トレ」ドリルをやらせる事例があった。横で採点をしながら、「×」がつくと、「どうしてできないんだ」と息子は怒鳴る。母親はおびえるだけで、何の解決にもつながらない。
※週刊朝日 2020年12月25日号より抜粋