自宅で見守る場合も、(3)外部と遮断された密室介護にしない。訪問介護サービスやデイサービスなど「他人の目」を入れる。自宅で2人きりだと、知らず知らずのうちに虐待もエスカレートするからだ。「あなたも介護に疲れてませんか」と、第三者に声をかけてもらえるオープンな環境をつくることがポイントだ。
思いを共有する家族が潤滑油になる場合もある。認知症の両親を介護し、何度も手を上げかけたと明かす仲茂明さん(仮名・62)も、一緒に介護していた妻が「しょうがないでしょう」と明るく声をかけることで“一線”を越える寸前で引き戻してくれた。母親はいまでは施設にもなじみ、落ち着いたという。
(4)親の介護で仕事を辞めるのは避ける。湯原教授はこう解説する。
「日本は介護をする子どもを“孝行息子”“孝行娘”とほめそやす文化がある。せめて親の最期は、と仕事を辞める人もいますが、収入が親の年金だけとなるのは危険です。年金だけでは金銭的に困窮する。将来を悲観して、介護心中をはかる事例も珍しくありません」
介護生活は突然やってくる。だからこそ湯原教授は、(5)介護生活が始まったら、友人でも親戚でも誰でもいいから自分の状況を人に話すことが大切だとする。
「50~60代の女性は介護経験を持つなど関心のある人が多い。3人の女性に相談すれば、介護の先輩として誰か一人は『○○を利用すればいい』『○○を準備したほうがいい』と知恵を授けてくれます」(湯原教授)
「認知症の人と家族の会」愛知県支部は、新型コロナウイルスの感染拡大でZoomによるリモート交流会を始めた。介護で抱える悩みを共有しているが、「男性ならばパソコン機器にも詳しい。外部とのつながりを見つけてどんどん参加して」(尾之内直美代表)。
(6)医療機関に相談する。家族の介護で通う病院の医師や、自分が疲れ果てていたら医療ソーシャルワーカーに相談するのもいい。医師が虐待の“サイン”をキャッチすれば、行政機関に相談の手続きをしてくれることもある。
最強の防止となるのは、(7)もし虐待かもしれないと感じたら、地域包括支援センターに通報することだ。
「センターがわからなければ、役所でもどこでもいい。虐待の可能性を感じたら、なぜそう思うのかを伝えて。結果として間違いでもいいんです」(同)
行政がSOSを認識すれば、虐待を防ぐとともに養護者支援の策を講じるなどしてくれる。
愛情や孝行心が自分を追い詰め、虐待につながるのが最大の悲劇だ。かつての「常識」や世間体に惑わされず、介護を手放す勇気をもってほしい。(本誌・永井貴子)
※週刊朝日 2020年12月25日号より抜粋