インターネットで検索すれば、すぐに無数のエロ動画や写真を見つけることができる現在からすれば、かつて、「散々悩んだ末にこっそりと自販機本(1970~80年代に自動販売機で販売されていた成人向け雑誌)を買いに行ったことがある」「橋の下に捨てられたエロ本を見つけて思わず興奮した」といった体験談には隔世の感がある。
“自撮り人妻熟女”として独自の世界観を表現している写真家・マキエマキさんが2020年9月に発表した2冊目の写真集『マキエマキ 2nd 似非』(産学社)は、まさに昭和のいかがわしいエロ本などを彷彿とさせる、ユニークな造りとなっている。妄想全開な写真集の誕生秘話やどこか後ろ暗い昭和のエロなどについて、マキエマキさんと担当編集者の松村由貴さんに話を伺った。
松村さんがマキエさんに初めて出会ったのは、松村さんが担当する小説家とマキエさんのトークイベントの時だった。マキエさんはセーラー服姿で、イベント開始前に「ちょっとコンビニに行ってきますね」とそのまま会場の外に出かけてしまったのが強烈だったと振り返る。
「マキエさんとお話ししてみると自撮り熟女が単なる露出趣味ではなくて、自分の裸の面白がり方や、それをどう面白がってほしいかを周到に計算しながらやっていることに気づきました。だから、いっそのことエロを増幅させて前面に出したら面白いものができるのではないかと提案してみたら、『私もそれをやってみたかったんです』とおっしゃってくださり、一緒に写真集を作ることになりました」(松村さん)
「このご提案が初めての写真集だったら同意できなかったと思います。でも、『私のエロは、私が決める!』と打ち出した1冊目の写真集があったからこそ、2冊目ではあえてエロ本のように見せる手法はありだと思いました」(マキエさん)
松村さんは長年、出版業界で官能小説の編集者として活動してきた。立ち位置としては、男性読者を中心にいかに劣情を刺激するかを考え続けてきた。一方のマキエさんは、男の妄想を体現したかのような熟女を演じて自撮りしているからといって決して男の欲望のために脱いでいるわけではなく、むしろ自らの意思で自分がやりたいからこうした表現を選んだにすぎない。一見、相反するような立場だが、だからこそあえて挑戦してみようということで二人の意見は一致した。
「僕とマキエさんがやってきたことに若干の違いはあります。でもこの2つをかけ合わせると変な化学反応を起こし、新たなエロスの未来が見えてくるんじゃないかと思ったんです。そうマキエさんに言ったら鼻で笑われましたけど」(松村さん)
「鼻で笑ったわけじゃなくて、私も面白いと思ったんです! 私もあえて劣情を煽ることを計算して撮ってたので。ただ、男や他人がどう思おうが関係なしに、自分が撮りたいようにやってきたことで、カメラマンとしての仕事は全部失ってしまいましたけど……(笑)」(マキエさん)