昨年大みそかに、2度目の王座防衛に成功した井岡一翔(C)朝日新聞社
昨年大みそかに、2度目の王座防衛に成功した井岡一翔(C)朝日新聞社
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現役を引退した後の川崎タツキ氏(C)朝日新聞社
現役を引退した後の川崎タツキ氏(C)朝日新聞社

 WBO世界スーパーフライ級王者、井岡一翔(31)の左腕のタトゥーが試合で露出していたことが問題化している。だが、過去には元極道、元薬物常習者から人生を立て直し、手術で入れ墨を消してまでリングに上がったプロボクサーがいた。その「元祖入れ墨ボクサー」は、井岡を巡る騒動に何を思うのか。

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「あれほどの素晴らしい試合が、こういう話になってしまうのは本当に残念です」

 こう語るのは、元プロボクサーの川崎タツキ氏(48)だ。

 ボクシングファンには懐かしい名前だろう。少年院を出た後、10代半ばで暴力団構成員となった川崎氏は、20歳を過ぎたころから覚せい剤に手を出して中毒になり、自殺未遂まで起こした。施設での療養を経てカタギとして社会に復帰し、プロボクサーを志したときにはすでに26歳になっていた。だが、その体には多くの入れ墨が彫られていたのだ――。

 井岡の一件でも焦点が当たったが、プロボクシングを統括する日本ボクシングコミッション(JBC)のルールでは、日本のライセンスを持つ選手で、「入れ墨など観客に不快の念を与える風体の者」は試合に出場することができないと定められている。スポーツマンシップの精神もあるが、テレビのスポンサーが嫌がることなども背景にあるとされる。

 背中いっぱいに入れ墨を彫っていた川崎氏は、この壁を超えるため友人らから200万円のカンパを受け、入れ墨を消すための手術に踏み切った。28歳でデビューすると日本スーパーウエルター級1位まで駆け上がり、日本と東洋太平洋王座に挑戦するなど活躍した。その人生はテレビ番組などで取り上げられ、人気ボクサーとなった。

 その川崎氏も、テレビを見て井岡のタトゥーには気づいたという。

「僕の時代の暴力団関係者の入れ墨と、最近のタトゥーはイメージがかなり違う」と前置きしつつ、こう話す。

「僕の入れ墨も、すべて消せたわけではなかったんです。でも、JBCが最終的に僕たちの熱意や努力をくんでくれて、入れ墨をファンデーションで隠すことを条件にデビューを認めてくれました。井岡君がどうしてタトゥーを入れたのかはわかりませんが、やっぱりルールはルールですから、試合ではちゃんと隠した方が良かったのではないかとは思います」

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JBCが強めてきた「暴力団排除」の動き