前作に比べるとかなりトリッキーだなと思います。ゴーサインを出しときながらなんですが、本当に売る気があるのかちょっと心配になります。賢明で妙齢な読者の皆さんはお分かりでしょうが、横溝正史先生の『悪魔が来りて笛を吹く』のダジャレです。おっかないやつ。子供の頃、テレビで観て夜中一人でオシッコ行けなくなったやつ。でも、そもそも日本の人口の何%が『悪魔が~』を認識しているのでしょう。もし本のプロモーションに呼ばれたら、私はまず横溝作品の話をして、ついては映画化作品にも触れつつ「これは西田敏行さん主演の唯一の金田一耕助ものでして、いわゆる角川映画ではなく春樹さんがプロデューサーとして参加した東映制作の……」と、回り道を繰りかえさねばなりません。かなりめんどくせえタイトルだな。
K氏からサイン本を100冊頼まれました。100冊にサイン、というとかなりの数に感じられるかもしれませんが、30分もかかりません。正直、こんなものか、という数です。売れ線の方はもっと大量のサインをするのでしょう。サインして売れるのならば、いくらでもします。コロナでキャンセル食らった落語会のあがりをこれで取り返すのだ。
皆さま、この時期のおせちとお酒で弱った胃腸に。曲がり角のお肌に。五十肩と関節痛に。拗れた男女関係に。コロナで疲れた頭と心と身体に。不要不急のこの一冊をどうぞ。Kさん! サインペン買い足しといてっ!
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。YouTube 「春風亭一之輔チャンネル」ぜひご覧ください! アーカイブもいろいろあります
※週刊朝日 2021年1月22日号