AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
写真家、川内倫子さんによる「そんなふう」は、40歳を過ぎてから娘を授かった川内さんが、出産と育児、義父の死などを経て、「生と死」について思索を巡らせたエッセー。写真と文章の交感も見どころである。著者の川内さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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薄いグレーの表紙には、濃いグレーのインクで控えめに著者名とタイトルが刷られている。大きな帯には川のほとりに佇(たたず)む小さな女の子の写真とともに「写真家・川内倫子、出産と育児の記録。」とあった。望んで迎えた高齢出産と育児の日々。夫と共に我が子を育てる幸福な毎日を記録しながらも、川内倫子さん(48)の文章にはこれまで見送った人々の「死」や喪失のにおいが色濃く漂う。
「高齢出産だったので、年齢的に義父の死と重なったんです。義父とは血のつながりはないけれど、初めて経験した親の死でした」
新しい命を迎え、老いた命を見送る。川内さんは人間として当然の営みを、短期間に凝縮して体験することになった。我が子をとらえた写真や文章もただ明るいものにはならず、大きな生命の円環の中に存在しているように思える。それが結果的に、さまざまな世代の人を引きつけたのではないだろうか。
本の出版と同時期に写真集『as it is』(torch press)を出版。個展も開いた。作品に触れた人々の感想は川内さんを励ました。
「個展に来てくださった女性が置き手紙をしてくださっていて、それがとても心に残りました。その方は子育てを終えて空の巣症候群になり、鬱々(うつうつ)と過ごしていたけれど、『写真を拝見して自分にもこんな時期が確かにあったのだと思えました。その時期は終わってしまったけれど、思い出は残っています』ということがとてもいい文章で書いてありました。子育て世代以外の方にそのように見ていただけて、とても嬉しかったです」