指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第53回は「金メダルのにおい」。
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新型コロナウイルス感染症拡大防止のための2度目の緊急事態宣言が出る中、東京都北区の国立スポーツ科学センター(JISS)で合宿を続けています。安全な環境で練習できることを、ありがたく思います。
五輪イヤーは年末年始の強化トレーニングから五輪代表選考会を兼ねた4月の日本選手権、五輪本番に向けた仕上げの合宿と密度の濃い練習が続きます。
北島康介のアテネ、北京、萩野公介のリオと、五輪で金メダルを獲得する年を振り返ると、ある時期から「これは取るな」という、においがしてきます。
五輪に向けた準備が進み、最後は「こういう練習をやればいい」という共通認識が明確になって、あとはやるだけ、という雰囲気が生まれてくるのです。
前々回に書いたように萩野公介はスランプを脱して、徐々に五輪金メダリストの力を取り戻しつつあります。それでもまだ練習の目的を確認し合いながら進んでいるので、はっきり金メダルのにおいがしてくる段階にはきていません。
2017年と19年の世界選手権の女子個人メドレーで銀と銅の二つのメダルを取った大橋悠依も練習に集中できていますが、金メダルにはもう一つ上のレベルの実力が求められます。
ここから先、必要になってくるのは、選手自身が五輪に出て結果を出したいと、どこまで強く思えるか、です。コーチの責任を放棄するわけではありませんが、まずは「選手の思いありき」だと思います。
世界中の選手が目標とする五輪では「周囲の期待とか、どう思われようとか、そんなもん関係ない! 自分は金メダルが取りたいんだ!」という思いがまさっている選手が勝つのです。