「他の医療・検診機関も1~3割減と考えた場合、今年度がんが発見されなかった人は少なく見積もって1万人になるかもしれません。日本では他の疾患での受診がきっかけになってがんが見つかることも多く、医療機関全体の受診控えも考えると、その影響は数万人単位になる可能性もあります」(小西さん)
検診だけでなく、がんの入院患者も減少している。グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンが全国344の病院に実施した調査では、がん患者の入院も減少。なかでも胃がんの昨年6~9月の手術入院は、前年比で2割以上減少した。
がんの診断・治療のなかで、もっとも新型コロナ感染拡大の影響を受けたのは胃がんだ。胃の内視鏡はむせやすく、エアロゾル感染が起きる危険があるとされ、日本消化器内視鏡学会は3月下旬、緊急性のない検査や治療は延期も検討するよう提言した。このため、4~6月にかけては、多くの医療機関で内視鏡を使った検査・手術がストップした。
現在は感染対策を取ったうえで検査や治療が再開された医療機関がほとんどだが、新百合ケ丘総合病院予防医学センター部長の袴田拓医師はこう話す。
「胃の内視鏡検査ではせき込みを防ぐため、従来は希望者のみに実施していた鎮静剤(麻酔薬)の点滴を全員に行い、本人が眠った状態で受けてもらうようにしています。そうなると、通常の1.5倍ほどの時間がかかり、検査を2割ほど減らすことになりました。予約の取りづらい状況が続いています」
東京大学医学部附属病院放射線科准教授の中川恵一さんは、この状況に警鐘を鳴らす。
「早期がんで症状があることはまずなく、検診をやらない限り、がんを早期で見つけることはできません。私自身もがん経験者で、18年の年末に膀胱がんの内視鏡切除を受けました。まったく症状はなく、自分で自己超音波検査をして偶然見つけました」
がんの進行は種類によって異なるが、多くの場合、微小ながん細胞が1センチの大きさになるのには10~20年かかる。しかし、1センチが2センチになるのには、わずか1、2年。1個が2個、2個が4個、4個が8個……と倍々ゲームのように増えていくため、進行するほどに急激に増殖していく。
胃がんの場合、早期(ステージI)で発見した場合の5年生存率が97.7%であるのに対し、進行後(ステージIV)では6.6%にまで低下する。がんが1~2センチの早期のうちに発見することが、予後を大きく左右する。