「今後1、2年で、症状が出てから病院に駆け込むがんの患者さんが増えると思います。その結果、進行がんで見つかるケースが増え、がんの死亡も増えるのではないかと懸念しています。医療機関はきちんとした感染対策をとっている。誤ったイメージで検診を自粛してはいけない。がん検診は決して、不要不急ではありません」(中川さん)
ただし、がん検診も受ければいいというものではない。国立がん研究センター検診研究部長の中山富雄さんは指摘する。
「がん検診の目的は、早期発見して死亡率を下げることにあります。日本で推奨されている胃がん・肺がん・大腸がん・乳がん・子宮頸がんの五つのがん検診は、エビデンスに基づいて推奨年齢や受ける頻度などが定められています」
自治体による住民検診は、この基準に基づいて設定されている。基本的には、これらの基準で受診すれば十分で、これより若いうちや、高い頻度で受ける必要はないという。
「子宮頸がん検診を除き、20代、30代からがん検診を受ける必要はありません。がんの頻度自体が少ないため、がんはないのに『がんの疑いあり』とされる偽陽性が多くなり、かえって不安を招くだけです。がん検診にはデメリットもある。放射線被曝や内視鏡検査によって粘膜を傷つけてしまう可能性などリスクもあることは承知しておく必要があります」(中山さん)
また、現在検診年齢に上限はないが、これまで検診を受け続けてきた人に対しては、ある年齢になったら「卒業」を考えてもいいと、中山さんは指摘する。
「たとえば胃がん検診は75歳、大腸がん検診は80歳くらいで卒業してもいい。内視鏡を使用するリスクが、早期治療による救命のメリットを上回るからです」
前出の中川さんは、がんには「運」の要素も大きいという。完璧な生活習慣でもがんになる人はいるし、ヘビースモーカーで大酒飲みでもがんにならない人もいる。検診を受けても100%がんが見つかるわけではなく、必ず見落としはある。膵臓がんのように非常に進行が速いがんは、検診によって早期に見つけること自体が難しい。
「がんの原因で最も多いのは、偶発的に起きるがん関連遺伝子の損傷です。すべてのがんを完璧に見つけようと頻繁に全身の検査を受けることは、精神的・経済的負担を考えると現実的ではありません。住民検診で推奨されているがん検診は、そのリスクを合理的に減らそうというものなのです」(中川さん)
(ライター・熊谷わこ、編集部・小長光哲郎)
※AERA 2021年2月8日号