オンライン無料講義シリーズの企画・運営を担うのは同大学の「人社未来形発信ユニット」。人文・社会科学分野で蓄積された知を、社会に向かって開き、課題解決へのビジョンを提示する目的で18年に設立された。ユニット長を務める出口康夫・文学研究科教授は、シーズン1の反響に、人文・社会科学に対する期待の大きさを感じたと話す。
「コロナ禍で多くの人がストレスを感じ、これまでの自分の生き方や社会のあり方が正しかったのか自問自答しています。問い自体があまりにも大きいために、深く考えるためには社会で共有できる言葉や座標軸が必要です。人文科学は、長い時間をかけて蓄積してきた人類の知恵ですが、目の前の現実とリアルタイムで結びついてこそ真価を発揮するもの。であれば我々は事態が落ち着いた後で、安全地帯から物を言うのではなく、刻一刻と事態が動く中で、人文知の考え方を現実にぶつけながら、座標軸を提供していくべき。それが我々の使命だと考えました」
内容を少し具体的に振り返ってみよう。例えば児玉聡・文学研究科准教授による「倫理学」。取り上げられたのは、「ダイヤモンド・プリンセス号と隔離の問題」「人工呼吸器を誰に配分するか」「自粛か強制か」などまさにこの1年で私たちが直面してきた課題だ。公衆衛生を守るために、どこまで個人の自由の制限が許されるのか。制限してよい場合、その根拠や条件とは何か──。それらを考えるために「毎年餅を喉につまらせて亡くなる人がいるのに、餅を禁止しなくてよいのか」といった問いが投げかけられ、参加者はチャット画面で自分の考えを書き込んでいく。児玉准教授は、講義の中でアプリを使ったアンケートも実施。瞬時に500人近い受講生が回答した。