■理想の死に方

 最後に徳島さんに、自分が死ぬときは、どういう死に方をしたいかたずねた。

「『素直に生きたいし、素直に死にたい』と思っています。今からの全てが死ぬ準備だと思います。死の気配がしてからどんな死に方がしたいかを考えても、大したことはできません。友だちに会うことも、自分の好きなことを極めることも、家族とのコミュニケーションを深めることも、毎日、毎時間、死ぬまで大切にしなくてはならないと思っています」

 母親は抗がん剤治療で苦しんでいた頃、徳島さんにこんなことを言った。

「私は自分の父親の介護も最後まで頑張ったし、義理の兄が倒れた時も、自分が休む時間を削ってまで頑張った。それなのにあなたは、私がしんどい時もあまり来てくれなくてつらい。どうして優しく助けてくれないの?」

 当時、徳島さんは仕事が忙しく、息子はまだ9歳。そこまで母親が弱っているとは思わなかったし、元気になることを疑わなかったからこそ頻繁に会おうとしていなかった。

「毎日付き添ってくれている父への甘えもあったと思います。私はびっくりするとともに、母の辛さに気づいてあげられなかったことを反省し、その後は会いに行く回数を増やしました。ただ、家族は『何かしてあげたい』と思っても、『してほしい』ことは、本人から言われなければわかりません。自分がつらくなってからだと家族を責めてしまうので、夫や息子には、普段から愛情や気持ちはもちろん、死に際にしてほしいことを言葉にして伝えています」

 徳島さんは、
・痛いのは嫌。人工心肺は付けたくない
・手術などで手を尽くす場合は家族と引き離されることが多いが、2人には近くにいてほしい
・死を伝えて欲しい友人、知人の名前と連絡先
・葬式と供養のこと
 これらの他に、夫へは、「私の死後に彼女を作ってもOK。でも、結婚は息子に相談してから決めて」などを伝えてあるという。

「余命を宣告される死だけではなく、突然訪れる死もあります。元気な時に伝えておかないと、いざという時では言えないかもしれません。また、死が訪れて後悔するのは本人だけではなく、周囲にも「~させてあげたかった」という思いが残ります。母が亡くなり、もう何もしてあげられない。喜ばせてあげることができない。そんな気持ちが、今も心に残っています。どんなに思っても、もうやってあげられることはないのです。そんなつらい思いを、大切な息子や夫にはさせたくないのです」

 徳島さんは、「夫と息子には、『この人は楽しそうに生きていたし、幸せな人生だっただろうな。俺たちのお陰で……』ぐらいに思ってもらえたら最高だと考えています」と言って微笑った。

「照れくさくて言えない」「伝えるのは今じゃなくてもいい」と思うことは、生きていれば時々あることだ。

 しかし、「明日死ぬかもしれない」場合でも、「照れくさい」「今じゃなくてもいい」などと思うだろうか。

「明日死ぬかもしれないと思って生きること」は、「今日という日を大切に生きること」と等しいと思う。
                                                                                   (文・旦木瑞穂)

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