先週、中トロと大トロの境界線はどこか、というお話を書いたところ、多くの方から「マグロは部位以外にも、魚種の違いによって値段も味も変わってくる」とか「天然か養殖かも味に影響する」といったコメントをいただきました。
そこで今回は、魚種や育ち方の違いについてです。
皆さんご存じの通り、マグロの代表選手といえば「クロマグロ(本マグロ)」ですよね。北半球の中緯度から高緯度の限られた海域にしか生息せず、大きさが最大で300キロ以上になることから、脂乗りもよく、やや酸味のある赤身の深い味わいも人気の魚種です。
世界の全マグロの漁獲量の2%程度しか取れないこともあり、値段も一番高くなっています。
そして実はクロマグロに匹敵するのが、南半球の中緯度から高緯度に生息する「インドマグロ(ミナミマグロ)」です。濃厚な旨みが強い赤身が特徴で、トロについても、クロマグロほど濃厚ではなく、どちらかというと上品で口溶けのよい脂です。こうした特徴から、クロマグロよりインドマグロの方が好きという方もいるようです。
マグロを扱う職人さんが最後にたどり着くのはインドマグロ、と言われることもあり、玄人ウケのするマグロといったところでしょうか。
その他、関西では非常にポピュラーなのが「キハダマグロ」です。背びれや尾びれが黄色いのが特徴で、その身はクロマグロなどに比べるとややあっさりしています。赤身もややピンク色がかっていて、脂肪分が少なく味もあっさりめなので、関西の人に人気なんでしょうか。
また最大でも60キロ程度と比較的小型の「ビンナガマグロ」は、脂が少なく身も柔らかいことから、欧米などでは主にツナ缶の材料として活用されています。ただ、高緯度で取れた魚体の脂身の部分は、比較的すっきりとした味わいの脂身で、回転寿司チェーンが「ビントロ」として売り出したところ、今では手軽に食べられるトロということで、人気のメニューです。
そして大きな目が特徴的な「メバチマグロ」は、赤身の旨みが強く人気の魚種で、スーパーなどでもよく売られています。クロマグロの脂のりが良くない夏場でも比較的よく脂が乗っていることから、夏場はメバチマグロの方が旨いというファンもいます。
余談になりますが、「マグロ」の呼び名の由来については、目が真っ黒だからとか、赤身を放置しておくと黒くなってしまうから、泳いでいる姿を上から見ると黒く見えるからなど、いくつかの説があります。いずれにしても、「真っ黒」が変化して「マグロ」になったということのようですね。
また、数年前にクロマグロの完全養殖成功が大きなニュースになっていましたが、マグロの養殖は日本各地で行われています。最も多いのは、捕獲したクロマグロを一定の期間、いけすに入れて脂のりをよくして出荷する「蓄養」というやり方です。
外洋を泳いで鍛えられた赤身の外側にたっぷりの脂が乗った、とてもおいしいマグロを作ることができると言われています。
このように同じマグロでも、部位だけでなく、魚種や育ち方によってさまざまな特徴があり、それぞれに味わいが変わります。さらに熟成することで、マグロ本来の旨みを一層引き立たせることもできます。
ぜひ皆さん自身の舌で、他の人とは違う、自分好みのマグロを見つけてみてはいかがでしょうか?
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○岡本浩之(おかもと・ひろゆき)
1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2021年1月から取締役 広報宣伝IR本部 本部長
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