講道館にある近代柔道の創始者・嘉納治五郎の銅像。不祥事が相次ぐ全柔連の有り様を見て、何を思う(撮影/写真部・工藤隆太郎)
講道館にある近代柔道の創始者・嘉納治五郎の銅像。不祥事が相次ぐ全柔連の有り様を見て、何を思う(撮影/写真部・工藤隆太郎)
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 全日本柔道連盟が揺れている。この1月には前女子日本代表監督らによる女子選手への「暴言、暴力行為」が発覚。3月半ばには、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)から指導者に支給される助成金(一人年間120万円)の3分の1(40万円)が、全柔連幹部の指示で、関連口座に振り込まれていた問題が表面化した。

 この制度、もともとは活動資金難に苦しむ選手や指導者の救済のために作られた(選手はA強化選手が年240万円、B強化選手が年120万円支給)。だが指導者に支給された助成金のうち、全柔連に「上納」されたカネは、幹部の交際費や飲食費などにも使われていた。

 ところが3月下旬、その助成金を得るために作られる「強化選手と担当指導者のリスト」の中に、「指導実態があるとは思えない指導者」が記載されている疑いが判明したのだ。

 助成金が支給される選手と指導者のリストを本誌は入手した。2012年度リストに列挙された助成対象選手は40人。うち28人にそれぞれ「担当指導者」1~2人が記され、指導者数は47人にのぼる。
 
 47人のうち「明らかに選手との組み合わせに疑問符がつく指導者」は誰か、事情に詳しい全柔連元幹部など複数の関係者に聞いてみた。

「選手の所属チームの監督やコーチが指導者と記載されたケースが少ない。ナショナルチーム(日本代表)のコーチが、指導していない選手に、適当に割り振られている場合が多い。全体の半分ほどがそうだ」
「これはまだ罪が軽い方。悪質なのは、指導そのものに関わっているかさえ疑わしい人が記載されているケースだ」

 例えば中体連競技部長の田中裕之氏(中学校長)、高体連からはA氏(高校教諭)。彼らが日本代表クラスを「指導」したとは、いくら何でも考えにくい。田中氏、A氏は中体連、高体連を代表する理事として全柔連の最高議決機関、理事会に名を連ねる(田中氏は助成金返還と理事辞職の意向を表明)。

 警察代表のB氏、実業団代表のC氏も全柔連理事だが、「指導対象とされた選手の職場からみても、指導実態はない可能性が高い」(全柔連元幹部)。国際柔道連盟審判員のD氏については「上村会長の側近。だが指導実態はないに等しい」。

 全柔連関係者は、

「本当に指導している人に『(3カ月ごと支給される30万円のうち)10万円を強化委員会に出せ』とは、全柔連幹部も、さすがに言いにくかったのではないか。どう取り繕ってもこれは裏金だから」

 と話し、指導実態がほとんどないとみられる各界代表理事をリストに入れたのは、

「理事会対策狙いでは。多少の小遣いにもなるし。全体として、リストには上村体制に近い人、側近と言えないまでも言うことを聞く人ばかりが並んでいる。批判的な指導者は、見事なくらい排除されている」

 と指摘する。

AERA 2013年4月22日号

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