さて、対談はセトウチさんの独壇場で、僕は「ハイ」とか「ヘェー」とうなずく程度でしたが、名物編集者は対談の後半で僕が一気に巻き返して豆ごはんの話で見事に大団円にして二人のバランスを取ってくれました。「すっかり忘れている」のはセトウチさんじゃないですか。
ついでに、もうひとつ僕の名誉のために(笑)訂正しておきます。城崎温泉で朝食のあとでぜんざいを、僕は三杯食べた、とこの前の往復書簡で書いておられます。オーダーをしたのは僕ですが、旅館のおかみさんがセトウチさんと妻と僕と編集者の四人前のぜんざいを作ってくれたのですが、ひとりで三人前も食べていません。その後、街でまたぜんざいを食べたとも書いておられますが、食べたのはゴマ入りソフトクリームです。どんどん話が捏造されます。
僕は学問や知識にはうといですが、画家は肉体的な作業なので、体感したものは全部覚えています。この点、セトウチさんより、肉体感覚と視覚体験の記憶においては負けていません。その上、日記に全て記述しています。どうですか、怪僧寂面相殿、明智小忠郎にはまいったでしょう。
■瀬戸内寂聴「呆けたバアさんの方が可愛らしいでしょ」
ヨコオさん
いつの間にか、明智小忠郎に改名されたらしいヨコオさん、やっぱり「ヨコオ」さんの方が、実物の天才に似合いますよ。
さて、今回のヨコオさんの文面によると、いかに私の毎回のこの手紙が、いい加減で、私の記憶は、すべてモーローとした夢みたいなもので、実在の記憶とは縁遠いということらしいです。
たしかに、ヨコオさんのこの文章を読むと、すべてのことがありありと思い出され、それは私の記憶とはすっかり縁遠く、ヨコオさんのいわれる通りなので、笑ってしまいます。
「笑い事ではないぞ!」
とヨコオさんの怒っている顔が浮かびますが、ちっとも怖くありません。
近頃、私はよくヨコオさんを怒らせている気がしますが、それが事実だったら許してください。