落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「失言」。
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通販で「おしゃべりアカチャン人形」みたいなやつを買ってみた。「おはよう」「いいてんきだね」「おやすみなさい」……ありきたりのことしか言わず、刺激が足りない。
アカチャンと真逆のものは……お爺さんか。なんと「おしゃべりおじいさん人形」を発見。しかも数種類。みな胸にバッジを付けている。税込み5980円なのに「おしゃべりアソウくん」だけ税込み7980円。どうやら衣装が他の人形より高級らしい。キザなハットにトレンチコート。付属品でライフルまでついてきた。スイッチを入れるとダミ声で「え~、シモジモのみなさ~ん」。8千円近く払わせといて「シモジモ」とはなんだ! 「お前はそんなに偉いのか!?」と返すと「どこの社だ?」とこちらをペンで指してきた。しまいにゃ「おたくらとは民度が違いますから(笑)」……なんだ、こいつ!? 即、返品。
「おしゃべりガースー」。スイッチオン。なんだこれ? 無表情かつ話がたどたどしい。これ……立場上、無理してしゃべってるだけじゃないか? 原稿を取り上げたら黙りこくった。なんか見なきゃしゃべれないのか? 可哀想になって「お話、苦手なの?」と優しく聞くと、ジロリとこちらを睨んで「その指摘には当たらない」だってやがら。クーリングオフだ!
「おしゃべりニカイさん」。ずいぶん古い型だな、この人形。マスクから鼻が丸出し。付属品の「だんまりセイコちゃんと家来一同」を横に並べると話し始めた。「むにゃむにゃごにょごにょはにゃはにゃ」。なに言ってるかわからない。時折、声を張ってると「怒ってるの?」とわかる程度。でも目に見えない力があるようで、並べておくとガースーは気の毒なほど下を向いて黙っている。人形焼に似てるね、ニカイさん。