米連邦議会議事堂の襲撃事件で、トランプ前大統領を「反乱扇動罪」に問うた弾劾裁判は、無罪評決となった。だが、共和党内の分裂は鮮明になり、今後の党の行方も見通せない。AERA2021年3月1日号の記事を紹介する。
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米連邦議会議事堂への暴徒による攻撃を未公表の映像で見せる身も凍るようなビデオ、襲撃の恐怖を思い出し声を詰まらせる下院弾劾(弾劾)管理人(検察官に当たる)、「証拠は何もない」とまるでトランプ氏のように検察側を挑発する同氏側の弁護士──。
1日約9時間にわたる丁々発止のやりとりが5日間展開された上院のトランプ氏弾劾裁判は、米議会史上まれにみるドラマに満ちていた。
弾劾管理人側は初日の2月9日(米東部時間)、1月6日の襲撃事件がトランプ氏の言葉に誘導されたと証明する、時系列で追った約14分間のビデオを証拠として提出した。ビデオは「生々しい映像があります」と警告付きでたちまちSNSで拡散されて、多くの人びとを震え上がらせた。
「反逆者ペンス(前副大統領)を吊(つ)るし首に!」と設置された絞首刑の台。「ナンシ~、ナンシ~、どこにいるの~」とホラー映画さながらの甲高い声で、議事堂内でナンシー・ペロシ下院議長を探し回る男たちの姿。警官に催涙ガスを吹き付け、ガスマスクをもぎ取る無数の手。議会職員が隠れている部屋のドアを何度も叩く暴徒たち──。
■警察官は泣き崩れた
そのビデオを議場で見ていたのは、1月6日当日、恐怖におびえながら同じ議場から避難した上院議員たちだ。さらにビデオは、ペンス前副大統領やペロシ下院議長だけでなく、万が一、一人でも議員が暴徒に見つかっていたら「死」が待っていたかもしれない、と思わせるものだった。
「これが、アメリカなのか?」
弾劾管理人のリーダーを務めたジェイミー・ラスキン下院議員は冒頭、裁判員の役割を果たす上院議員らにこう尋ねた。
「議事堂警察官の一人は、暴徒と対峙し、議事堂から全員を退去させた後、床に倒れ、15分間泣き崩れたという。これがアメリカか?」