ここで言及された安倍前首相の「家族の問題」というのはもちろん、妻の昭恵氏が関与したとされる森友学園問題だ。

 財務省近畿財務局は2016年、小学校の開校を計画する森友学園に、鑑定価格から地中ごみの撤去費用8億1900万円などを値引きして国有地を売却した。昭恵氏が小学校の名誉校長に一時就いていたことから、官僚側による忖度が指摘されている。この問題では、財務省は昭恵氏らの名前を削除するなどの文書の改ざんを認めている。指示されて改ざんを行った職員は、自殺した。

■権力者本人の「無自覚」

 塩田氏は、過去の何人かの首相経験者の家族と、取材を通じて交流を持ってきたという。そうした人たちから聞いている話として、最高権力を手に入れた、あるいは手に入れようとしている政治家を夫や父親に持つ家族は、かつては自制を心がけるなど、生き方や生活には大きな制限があった、と述べる。

「ところが今は夫婦のあり方も人それぞれ、親子も独立すればそれぞれで、権力を預かって公的な仕事をする人間を家族全体で支えるという価値観が希薄で、奔放に振る舞うケースが多くなっているのでは」

 権力者本人の“無自覚”はどう評価するべきだろうか。今回、菅首相は長男とは「別人格」として批判をかわす構えだ。

 自覚が足りない──。あらゆる不適切な権力の利用を排除する目的で、当事者たちをそう批判することもできなくはなさそうだ。しかし、政治学の考え方では必ずしもそう単純な批判が通用するものではないという。

 新潟国際情報大学の越智敏夫教授(政治学)が指摘する。

「政治学では、権力に良識を求めることはしませんし、まして総理大臣のような巨大な権力を握ろうなどと考える人物に良識を期待することは極めて難しいと考えられています。マキャベリが『政治学の始祖』といわれるのは、この点を明確に認めたことにあります」

 元も子もない話ではあるが、そういえば最近もジェンダー意識に難を抱えた元首相が注目されていた。マキャベリは一方で、権力者に求められるものがあると主張していた。「徳」だ。

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