結婚や出産、不妊治療を機に医師をやめる、ないしは勤務を中断する選択をする女性医師がいることも事実ですが、ベビーシッターを雇いながら勤務を続ける医師もいれば、出産後すぐに復帰して第一線で働く医師もいます。多くの女性医師は職場や働き方を変えながら、時に休みながらも医師を続けています。けれども、経営側からすると、出産や子育てを理由にやめてしまい、男性に比べて戦力にならない女性医師はいらない、ということになるのでしょう。

 医師の給与は、一般に男性医師の方が女性医師に比べて多いです。シカゴのSaunders氏らは、米国を代表する医師374人の調査の結果、女性内科医の年収中央値は20万ドルであり、男性内科医の25万ドルに比べて5万ドルほど低かったこと、さらにはまた、専門分野を問わず女性医師の方が男性医師に比べて年収が少なかったことを2018年に報告しています。

 しかし、医師の性別の分布差が少ない職場ほど給与の差が縮まっていることが、米国のWhaley氏らの報告で明らかになっています。外科以外の専門医を調べたところ、男性医師が90%以上を占める職場では男性医師は女性に比べて1年間に19.9%(91,669ドル)も多くもらっていた一方、女性が半数以上を占める職場で男性医師が女性より多くもらっている分はその半分ほどの11.7%(36,604ドル)でした。外科でも同様の傾向が認められたといいます。

 米国のハーバード大学のLy氏らが、2000年1月から2015年12月までに結婚した米国の夫婦ともに医師である4934組を調査したところ、子どものいる女性医師は子どものいない女性医師より勤務時間が短い一方で、男性医師についてはそのような差は認められない、つまり、育児にかかわる時間に男女差があったのです。

 先月、「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」という東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗・元会長の発言が、国内のみならず世界を巻き込む騒動にまで発展しましたが、女性に対する差別的な問題は依然として残ったままです。年に一度の「国際女性デー」をきっかけに、こうした問題が少しずつでも着実に解決されることを願っています。

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

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