『鬼滅の刃』は、主人公・竈門炭治郎が鬼狩りとなって、妹・禰豆子を「鬼」から人間に戻し、救済するまでの物語である。しかし、心優しい炭治郎は、鬼たちとの戦いの中で、鬼の悲惨な状況を知り、憎しみだけでなく、同情や葛藤を重ねていく。そんな中、どうしても炭治郎が「許せなかった」鬼がいる。「上弦の肆」の鬼・半天狗である。半天狗はなぜ炭治郎の逆鱗に触れたのか。セリフや表情から考察した。【※ネタバレ注意※】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。
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■炭治郎の「かたき」の鬼
『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)の一家は、炭治郎の留守中に鬼の襲撃にあい、妹・禰豆子(ねずこ)以外の家族が全員死亡する。禰豆子は、鬼の始祖・鬼舞辻無惨(きぶつじ・むざん)によって、鬼へと変貌させられていた。
それから程なくして、炭治郎は、「家族のかたき」である無惨と遭遇するが、無惨は一見すると美しい青年で、「人間の」妻子を連れだっていた。つまり、無惨は残忍なだけでなく、「人間に偽装する」ずる賢さがあある。この無惨の恥のなさ、厚顔さを、炭治郎はどうしても許せなかった。単に「かたき」であるだけでなく、この無惨への感情が、後に炭治郎が鬼に対して「激しい憤り」をかき立てる原体験となっていく。
■炭治郎の優しさと、消せない恨み
このように、無惨へは怒りを隠さない炭治郎であったが、彼は対決した一部の鬼に、無慈悲に振る舞うことができなかった。自分を襲った鬼に対しても、「苦しむだろうな 一撃で絶命させられるようなものはないのか……」と優しさゆえに迷う。
また鬼の中には、炭治郎が同情せずにはいられないような、悲しい半生を送ってきた者がいた。善悪の判断ができないような幼い内に、無惨にそそのかされて鬼になってしまった者もいた。炭治郎の「怒り」は、やみくもに鬼に向かうのではなく、いつも彼の思案の果てに存在する。