「罪なき他者」を襲う鬼を生み出したのは鬼舞辻無惨であり、鬼ですら無惨に利用されていることを知ってから、炭治郎は無惨への怒りをさらに強固なものにしていく。優しさゆえに、炭治郎の怒りは燃え上がる。だが、そんな心優しい炭治郎でさえ、無惨以外に許せない「鬼」は存在する。
■炭治郎が「絶対に」許さなかった鬼
炭治郎の怒りが絶頂に達した鬼――それは「上弦の肆(=四)」の鬼・半天狗(はんてんぐ)だ。半天狗は、炭治郎と霞柱・時透無一郎(ときとう・むいちろう)に初めて遭遇した際にも、「気配のとぼけ方」が衝撃的なほど、と言われており、戦闘に際しても、小狡さが見え隠れする。
無一郎が「霞の呼吸 肆の型・移流斬り」で斬りかかった時に、この半天狗は「柱」の攻撃をかわせるほどの実力者なのに、「ヒィィィ !!やめてくれえ いぢめないでくれぇ」と声を震わせている。しかし、炭治郎と無一郎を襲撃したのは、この半天狗の方なのだ。
■爆発する炭治郎の怒り
半天狗は特殊な鬼で、窮地に陥れば陥るほどに、自分の身を守ってくれる分身を作り出し、強くなる。そして、おのれの罪は棚にあげて、自分に攻撃する者に「何という極悪非道」と罵るのだった。炭治郎はこれまでの鬼には見せたことがないほど怒りをあらわにする。
<大勢の人を殺して喰っておいて 被害者ぶるのはやめろ!! 捻じ曲がった性根だ 絶対に許さない><悪鬼め…!! お前の頸は俺が斬る!!>(竈門炭治郎/14巻・第116話「極悪人」)
そして、この半天狗のエピソード回のタイトルは「極悪人」だ。上弦の鬼とはいえ、半天狗は、敵キャラクターとしては「小物」である。にもかかわらず、なみいる鬼たちと比較しても、半天狗は「極悪」と形容されているのだ。
炭治郎が「悪鬼」と呼び、これほどまでに激高することは珍しい。いつも、そばで炭治郎の戦闘を見続けている禰豆子が、炭治郎の怒りによって震える空気の揺れを感じ取り、目を見開く。一時的に鬼化が進み、興奮状態になっていた仲間の不死川玄弥(しなずがわ・げんや)も、普段と違う炭治郎の様子に圧倒されている。