今年はコロナの緊急事態宣言の真っ只中だが、例年通りに桃の花とともに訪れる人を喜ばしてくれた。

 もともと雛祭りは五節句の一つで、中国から渡ってきた行事であり、厄災を避けるために行われたもの。汚れを清めるために紙雛を川や海などに流し、子供たちの健康を願って美しく飾り付けをし、御馳走を作って祝う行事となった。

 コロナ禍で雛祭りも中止になる所が多いが、ほんとうはこういう時期だからこそ、厄災から逃れるためにかえって必要なのかもしれない。

 3・11から今年で十年。ちょうどこの時期、雛が飾られていた家が多かったと思う。

 その後に被災地を訪れた時に見た、泥まみれの雛の白い首が瞼に焼きついて離れない。

週刊朝日  2021年3月19日号

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数

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