菅氏の答えは「その方に(元山氏)聞いてください」と小馬鹿にしたものだった。元山氏の背後にいる幾万の県民の存在が全く視界に入っていない。会見の質疑はネットで拡散され、元山氏は「体を張って抗議をしている私を嘲笑わらい、政府の認識を本人に聞いてとはどういうことですか。いまの日本政府、政権というのはどれだけ冷酷なのか。選んだ方々もどう思うんだろう」と怒りを込めてツイートした。結果的に全市町村での実施が決まった同年2月の県民投票では、投票率が5割を上回り、「反対」が7割を超えた。しかし、やはり菅氏は「結果を真摯に受け止める」と言いながら、工事を中断する気配も見せなかった。

 前述したように、安倍・菅政権で一貫しているのは「政府に刃向かう者を徹底的に封殺し、孤立させる」という非民主的な価値観だ。そして、沖縄については「世界一危険な普天間基地の除去」「辺野古移設が唯一の解決策」と繰り返すことで世論を誘導し、国民全体を思考停止に追い込んでいる。私も官房長官会見で、埋め立て現場の赤土使用など何度か問いただしたが、「そんなことありません」「今答えた通りです」と木で鼻をくくった対応ばかりだった。これらの質疑からわかったのは、菅氏は徹底して沖縄を見下しているということだ。総裁選でも繰り返した「地方分権を進める」とは虚偽ではないか。

 政府の横暴には怒りしか湧かない。ましてや沖縄の記者たちはどう思うだろうか。沖縄の日常や事件を取材する記者たちはみな、基地問題にぶち当たる。現在まで続く「不条理」に否応なく直面しなければならなくなる。私が知る沖縄の記者たちは穏やかな記者ばかりだ。でも、その根底には沖縄県民が受け続ける不条理への怒りと、ペンの力で少しでも現状を伝えたいという気持ちがあふれている。

 安田氏は「それぞれの持ち場で、現場で、私は彼ら彼女らの情熱と言葉に触れた……私が目にしたのは、普通の新聞記者たちだ。伝えるべきことを伝え、向き合うべきものに向き合い、報ずることの意味を常に考えている……その姿が、ただひたすら眩しかった……そんな私に、沖縄の記者たちは、むせかえるような熱さをともなって、『当たり前の記者』である生身の姿をさらしてくれた」と記している。全く同感だ。そう。私だけではないだろう。原発事故があった福島の記者、広島・長崎の被爆者を取材する記者――。それぞれが、現場で出会った市井の民の思いを背負って取材をしている。

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