農薬や食品添加物など、食の安全を脅かす問題は数多い。もし危ない食品を買ってしまった場合はどうすればいいのか。元東京都消費者センター試験研究室長の増尾清氏が注目するのが、日本人の昔ながらの食事で行われている「下ごしらえ(下処理)」だ。食品添加物のほか、残留農薬や化学肥料、環境ホルモンなどの有害物質を大幅に減らすことができるのだという。

「下ごしらえは本来、食品の水っぽさやアクをとり、味を良くするために行われるものですが、私がこれまで消費者センターや個人的に実施してきた実験で、さまざまな毒抜き効果が認められています」(増尾氏)

 例えば、残留農薬には大きく分けて病気を予防する成分と殺虫成分とがある。病気予防成分は農作物の葉の表面だけについているが、殺虫成分は農作物の葉の中に入り込む。それが、キュウリなどを板ずりするだけで、中に入り込んだ殺虫成分までも効果的に取り除くことができる。水や熱湯、酢水などにつけるアク抜きでも、残留農薬をはじめ、環境ホルモンの一つ、ダイオキシンが除去できる。

「ホウレン草は、最初に流水で洗い、そのあと2センチぐらいに切ってから熱湯でゆがくのがお勧めです。1、2分だけで有害物質は落とせます。栄養素は短時間ゆがいただけでは損なわれにくいですし、味も落ちません」(増尾氏)

 肉や魚などの湯通しや霜降りでは脂溶性の有害成分を、お湯に溶けやすい脂とともに落とせるし、隠し包丁を入れておけば、お湯に触れる面積が増えるから、いっそうの効果が期待できる。ウインナーなどの加工食品も同様だ。焼いてパリッとした食感が好みだとしたら、一度、湯通ししてから焼けばよい。

 肉や魚の血抜きや、魚の背わたやはらわたを取ることを面倒がる人も多いが、有害物質が内臓にたまりやすいため、これはゼヒモノ。小魚では難しいかもしれないが、せめて頭だけでも調理前に取りたいところだ。

 増尾氏が「意外に見過ごされている」と指摘するのが、切り方だ。ポイントは溶出面積。輪切りや乱切りより、千切りやみじん切りのほうが溶出面積は広いので、毒抜きの効果が高い。作る料理によって切り方はある程度決まってくるが、子どもがいる家庭などでは、料理の見てくれを度外視して、みじん切りのジャガイモでカレーを作ってみてもいいだろう。

週刊朝日 2013年5月17日号