また、早稲田大学法学学術院の棚村政行教授と、制度実現を求める「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」(陳情アクション)が去年行った調査では、全体の1.3%、20代男性の2.4%が「別姓が選べないために結婚を諦めたことや、事実婚を選択したことがある」と回答した。棚村教授はこう指摘する。

「家族の法律は個人の尊厳や婚姻の自由を保った上で制定されるべきですが、名前という『個』を表す重要な要素に選択肢がない状態が続いている。改姓は女性の人権にかかわるものと考えられがちですが、男性にとっても重要な問題をはらんでいます」

 ソフトウェア会社サイボウズ社長の青野慶久さんは言う。

「別姓が法的に認められないことで、会社は社員の戸籍姓と仕事で使う旧姓のふたつを管理しなければいけない。改姓手続きを必要とする機関の窓口にも無駄な負荷がかかっています。本来必要のないコストで、日本の生産性が損なわれています」

 青野さんは2001年の結婚時に、妻の姓である「西端」に改姓している。その後さまざまな不都合に直面したことから、選択的夫婦別姓制度の実現を求めて発信を続けてきた。

「仕事では『青野』を使い続けていますが、今日も契約書に『西端慶久(青野慶久)』とサインしました。契約書にサインするときは法務部がその都度『青野』でいいのか『西端』にする必要があるのか確認するなど手間をかけています。また、このサインで婚姻という個人情報も漏れてしまう。不合理な制度です」

(編集部・川口穣)

AERA 2021年3月22日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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