68歳から警備員として働き始めた柏耕一さん (c)朝日新聞社
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(週刊朝日2021年3月26日号より)
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56歳でパナソニックからサノヤスHDに転職した米田康浩さん (c)朝日新聞社
56歳でパナソニックからサノヤスHDに転職した米田康浩さん (c)朝日新聞社

 私たちの人生から「老後」という時間がなくなる「老後レス社会」が到来する──。少子高齢化と人口減少に加え、所得格差の広がりによって、日本人の生涯は激変する。「死ぬまで働かないと生活できない時代」を生き抜く術とは?(朝日新聞特別取材班)

【グラフ】増え続ける65歳以上の就業者数と就業率はこちら

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「老後レス」という言葉を耳にして、あなたは何を思い浮かべるだろう。

 キャッシュレス、コードレス、シュガーレスなどの単語でおなじみの「レス」は、「~がない」ということを示す英語の接尾辞(less)だが、それを「年老いた後」という意味の「老後」につけた造語だ。

「老後がなくなる」時代がやってくる。政府は、そんな社会に向けて着々と手を打っている。

 4月1日から、70歳就業法が施行される。現在の法律は、企業に対して、定年廃止、再雇用などによって従業員が65歳まで働けるようにすることを義務づけているが、70歳まで延長して努力義務とする。フリーランス契約への資金提供や起業の後押し、社会貢献活動への参加支援なども選択肢として認める内容だ。

 この「70歳定年」について、政府は将来的な義務化も視野に入れている。高齢者にできるだけ現役のままでいてもらい、年金などの社会保障の担い手を増やす狙いなのは明らかだろう。

 安倍前政権が「一億総活躍」というスローガンを掲げたのは記憶に新しい。2019年10月4日に召集された臨時国会の所信表明演説で、安倍晋三首相(当時)は「65歳を超えて働きたい。8割の方がそう願っておられます」「意欲ある高齢者の皆さんに70歳までの就業機会を確保します」と語った。

 この首相発言にネットはざわついた。「働かなきゃ食えないんだよ!」「大半の人は『働きたい』じゃなくて、『働かざるを得ない』ですよね」という反発が数多く書き込まれた。

 この「8割」という数字は、仕事をしている人に分母を限定した数字で、回答者全体では約55%だったことがのちに明らかになる。自分の意思として働きたいのか、生活のために働かざるを得ないのか。多くの人が感じる老後不安は、派手なスローガンで覆い隠すには大きすぎるだろう。

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