コロナ禍で早期退職募集を始める企業が増えており、ターゲットにされているのはだいたい中高年だ。しかし、追い出すどころか、中高年に絞った中途採用をしている会社が大阪にある。機械設備の製造販売を手がけるサノヤスホールディングス(HD)だ。

 米田康浩さん(60)は、2016年に56歳でパナソニックから転職した。当時、60歳の定年を前に今後の人生を考え、「もう一度新しい環境で挑戦したかった」と言う。

 米田さんは1981年に新卒で旧松下電器産業に入社し、技術部門などを中心に計34年間を松下・パナソニックで過ごした。サノヤスHDに転職後は、グループ会社の合併や新工場の建設を担当している。現在はグループ会社の役員だ。

「パナソニックで培ったマネジメント能力はこちらで役立っている。第二のサラリーマン生活、楽しいですよ」と話す顔はすがすがしかった。

 明治時代に造船会社として創業した同社は、時代の荒波を何度も乗り越えてきたが、1970、80年代の造船不況に苦しんだ時期、新卒をほとんど採用できなかった。そこで「管理職となる50代が足りない。一方で大企業にはそうした人材がくすぶっている」ことに着目。2013年からこうしたシニア採用を始め、いまでは22人が働くという。

 高齢になれば、経済状況も、働く気力、体力も人それぞれだ。老後レス社会と言っても、高齢者の数だけ、働き方、生き方がある。人間はただ一人の例外もなく老いる以上、老後レス時代とどう向き合うかは、すべての人が自分ごととして考えなければならない。

 限られた紙幅では書ききれないが、前掲書では、高齢者、そして予備軍まで、多くのケースを紹介している。

 迫り来る高齢期を前に不安を募らせる就職氷河期世代や、社内失業状態の「働かないおじさん」、定年前に会社に見切りをつけ、地方に移住した人など、それぞれの人生の選択を、読者のみなさんはどう考えるだろうか。

 これから先の数十年、日本の人口が減り続けることは、人口推計によってすでに確定している。ピーク時には年間100万人というすさまじいスピードで人口減少が進み、仙台と同規模の都市が毎年消えていくことになる。世界に類を見ない人口の大変動が日本をのみ込もうとしている時代、高齢者こそ、この国に残された最後の「人的資源」なのかもしれない。

週刊朝日  2021年3月26日号

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