――小学校から心の健康について学ぶことが重要ということでしょうか。
はい。現在、心の健康については、小学5年で初めて学ぶんですよね。ある小学校で5年生の担任をしている先生から、こんな話を聞いたことがあります。その先生が「不安や悩みへの対処」の授業の前に、子どもたちに「不安や悩みはありますか」とアンケートを取ったところ、ほとんどの子どもたちが「ない」と答えたんだそうです。
その後授業で子どもたちに、「テストの時に緊張して夜眠れなかったことはあるかな。友だちとケンカをして不安な気持ちになったとか、小さなことでもいいから挙げてみよう」と声掛けをすると、子どもたちもいろいろ思いつくわけです。その中で「ああ、不安や悩みというのはこういうことなんだな」「結構悩みはあるものだな」と気づく。ではそれをどのように解決したらいいんだろうと授業を進めていく中で、たとえば「学校の先生に相談しよう」とか、「ちょっと体を動かしてリフレッシュしよう」とか、「家族に話してみよう」とか、そういったさまざまな対処法を子どもたち自身が導き出していく――。授業の後のアンケートでは「自分に不安や悩みがあることがわかった」という回答が多かったそうです。
中学校でも、心の健康を保つには、適切な生活習慣を身につけるとともに、欲求やストレスに適切に対処することが必要であることを学びます。その知識をもって高校で精神疾患を学ぶということがすごく大事です。
つまり、高校で突然「精神疾患とはこのような病気である」という疾病概念をただ学べばよいわけではなく、小中高それぞれの発達段階に応じた学習内容を体系化して学んでいくことで子どもの理解を深めることができると考えています。
――授業で子どもたちが精神疾患の知識を持つことで、自分自身の病気に気づくことができるのではないでしょうか。さらに早期治療につなげる効果も期待できそうです。
そうですね。「病気に気づく」ということに関しては、まず子どもたちが自分の心やからだの健康について理解すること、そして学校現場で子どもたちを指導している教師、さらに保護者も理解すること、この三つの視点が大事だと考えています。