精神疾患は早期発見をして適切な治療を受ければ十分回復が期待できるのに、さまざまな理由で受診が遅れてしまっているという。受診を妨げているものの一つに精神疾患に対する「偏見」がある。東邦大学医学部精神神経医学講座教授の水野雅文医師に聞いた。
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――精神疾患に対する社会の偏見は、根強いものがあります。
そうですね。たとえば、精神疾患は誰でもかかり得る病気ですが、心が弱いからなるなどと思っている人はたくさんいます。また、早期発見をして適切な治療を受ければ十分回復が期待できるのに、かかったら一生治らないと恐れている人も少なくありません。
日本では、明らかな症状が出てから精神科を受診するまで5~6カ月かかっているのですが、受診が遅れる理由の一つがこうした「病気に対する偏見=スティグマ」です。
そんなやっかいな病気になったら困る、そんな病気であるわけがないと思いたい。でも病院に行って病気だと診断されてしまったら認めざるを得なくなる。診断されるのが怖い……。正しく病気を理解していないことによって生まれる「偏見」が、受診にブレーキをかけてしまっているのです。
――せっかく症状に気づいても、早期治療につながらないわけですね。
はい。未治療の期間が長くなるほど、病気が進行し、治りづらくなってしまいます。また、早期治療につなげるには、家族や学校の先生、友だちなど周囲にいる人が異変に気づいて受診を促すことも大事ですが、ここでも偏見が邪魔をすることが少なくありません。
親は子どもが発熱しているとか、どこか痛がっているとか、具合が悪そうにしていたら、病院に連れていきますよね。ところが精神疾患が疑われるような場合は、自分の子が「そんな病気」になったとは思いたくないから、なかなか病院に連れていかない傾向があります。
友だちや学校の先生も、精神疾患となると、「病院で診てもらったら」と、ほかの病気のように気軽に声をかけられない。