多くの人は、偏見や差別はいけないと理屈ではわかっているし、自分は精神疾患に対して偏見は抱いていないつもりでいます。でも実際には多少なりともそういう気持ち、つまり精神疾患に対する偏見があるから、「具合が悪いなら早く病院へ」という本来なら自然であるはずの行動に結びつかないのではないでしょうか。
2022年度からは高校の保健体育の授業で「精神疾患の予防と回復」を教えるようになります。正しい知識を得ることで行動も変わっていくのではと期待をしています。
――早期治療につなげるために、親はどんなことを心がければよいでしょうか。
精神疾患は若い世代で発症しやすいということを知らない人も多いでしょう。まず、うつ病や統合失調症といった10代でかかりやすい精神疾患について、病気の症状や特徴を親も知識として持っておくこと。そしてふだんからお子さんの様子をよく観察し、何げない会話を通して、「どういう子なのか」を知っておくことが大事です。ふだんの状態を知っていればいつもとは違う状態になった時に、わずかな変化であっても気づくことができますから。
これは学校の先生も同じで、自分が受け持っている子はどういう子なのか、わかっていてほしい。「どういう子なのか」というのは、成績がどのくらいだとか、何の部活をしているとか、家族構成といった型通りの情報ではなくて、「いつものその子の姿」です。
通信簿には、担任が自由に記入する「所見」の欄がありますよね。「校内合唱コンクールに向けてソプラノパートをまとめ、クラスの金賞受賞に貢献しました」とか「いつも明るくあいさつをし、周囲を温かな雰囲気にしています」とか「穏やかで優しい心の持ち主で、友人への配慮を常に心がけています」とか。各教科の成績の数字よりも、個性や人柄についての所見欄をすんなり書けるような先生であってほしいと思います。
昔だったら隣近所のおじさんやおばさんも、よその子どものことまでよく見て気にかけてくれていて、危険なことをすればしかってくれたり、困った時は手を差し伸べてくれたりしたものです。そんな温かい見守りが減ってしまった今、子どもに対する気づきが薄れていることを心配しています。
――子どもの異変に気づいたとき、親はどうすればいいのでしょうか。
まず身近な医療者に相談すること。ふだん診てもらっている小児科医などかかりつけの先生が適任ですが、それ以外にも学校の校医や養護教諭などに相談すれば、精神科医を紹介するなど道筋をつけてもらえるはずです。
ただ精神疾患の場合、本人が病気を自覚していないことも少なくありません。「病院に行こう」と言われても、本人にしてみれば病気ではないのになぜ病院に行かなければならないのか理解できなくて、受診を拒否されるなど、こじれてしまうこともあります。
そうならないようにするには、本人の身になって一生懸命話を聞き、困っていることや言いたいことを聞き出す「積極的傾聴」が必要です。あなたが困っていることを一緒に解決しよう……そんな姿勢で子どもに向き合っていただきたいと思います。
(文・熊谷わこ)