最近、野党に対して、批判ばかりで政策論をやらないという批判があることが影響しているのか、野党議員による政府追及の矛先が鈍っている印象がある。
3月16日の衆議院予算委員会の質問者・後藤祐一議員も、その日の審議が、NTTと東北新社の社長を呼んでの参考人質疑を中心とした審議であるため、他の重要案件については質問できないことをわざわざ断って質問を始めた。批判に気遣った前置きだ。
その直後、後藤氏が取り上げたのは、NTTや東北新社の高額接待を受けた谷脇康彦・前総務審議官が定年で3月31日に退職する予定だったのに、16日付で辞職願を出し、武田良太総務相がこれを認めたことだ。「今日辞めてしまったらこの後国会に呼べなくなるんですか。これは口封じじゃないですか!」と後藤氏は大きな声で追及した。
武田大臣は、「勝手に決めつけられても困る」と、後藤氏の議論が「決めつけ」であると思わせる印象操作をしたうえで、「国会でお決めになることに従い、誠実に対応して参りたい」と紋切り型の答弁を行った。
テレビのニュースでは、後藤氏が大声で「口封じだ!」と叫び、武田大臣は「決めつけるな」「国会が決めたことに従う」と答えるところが切り取られて放送されたので、「野党はつまらないことで大騒ぎしている」と思った国民も多いだろう。
しかし、後藤氏が声を荒らげたのはもっともだ。谷脇氏が現職の総務省職員であれば、国会が参考人として出席を求めた時、大臣が出席せよと命じることができる。一方、辞職した谷脇氏に対して国会は参考人としての出席要請はできるが、公務員ではないから、谷脇氏はこれを拒否できる。武田大臣が谷脇氏の辞職願を受理したことで、谷脇氏は3月31日までの間の国会での追及を逃れることになったのである。つまり、武田大臣がやったのは、「口封じ」以外の何ものでもない。武田氏は、このことをもちろんよくわかったうえで辞職を承認した。これは、完全に大臣自身の「故意犯」だ。官僚の不祥事とは次元が違う。「大臣の責任ですよ。隠蔽じゃないですか。どんな責任をとるんですか!」と詰め寄った後藤氏は、もっと追及を続けても良かったくらいだが、こうした事情をマスコミはわかりやすく報じない。