「無職になり、貯金を切り崩していた時、マクドナルドの一つ59円のハンバーガーをアレンジしたのが自炊の原点です。野菜がないのでレタスを買い、ベーコンを焼き、豪華にするのです。チーズバーガーを買うよりも自分でスライスチーズをちょい足ししたほうが節約できるということも学びました」

 仕事で多忙になってからも自炊は続けている。

「お酒のつまみを料理して、妻と楽しく飲んでいます。自炊は娯楽でもあるのです。唐津は東京よりも間違いなく物価が安いですし、節約の効果を感じています」

■名前に価値を感じて無理して住むのはバカ

 また、毎月の固定費としてかかるのが住まいに払うお金だ。「家賃は月収の3割」という説もあるが、「それはうそ」と否定。中川さんの住まいの遍歴を見せてもらうと、家賃が月収の3割を超えたことは、収入が激減した時を除き、ない。(注:博報堂を辞めた際、月収が5万円に減った。風呂なし、トイレ共用で月3万円の部屋に引っ越し、家賃の占める割合は60%だった)

「〇〇パークタワー、〇〇ヒルズのような名前に価値を感じて無理して住むのはバカですよ。収入に応じて生活水準を上げると、貯金はできません」

 このことに関連して中川さんが繰り返し強調するのが、「見栄を張らない」ということだ。

「昨今は在宅勤務が推奨されていますが、快適な椅子が必要だといって7万円もする椅子を買う人がいます。そして、フェイスブックで自慢する。私は01年に東大の先生からもらった不用品のパイプ椅子で仕事をしています。『座れる』という実利を取れば、椅子にお金をかける必要はないはずです」

 唐津の生活を満喫する中川さん。最後に、地方移住をお勧めしたいと思った、あるエピソードを教えてもらった。

「農業に興味があり、伊万里市にいる74歳の農家の方を訪ねました。するとその方は『こんなに若い人がいてよかった』と言うのです。私はもう47歳ですよ。それでもここでは若者に見られる。

 糸島の村の寄り合いでも、57歳の九州大の先生が若手扱いされているようです。地方の方は後継者不足で悩んでいる。そう考えると、50代の人が、地方の酒蔵のおじいさんに『弟子にしてください!』と頭を下げに行くのも面白いと思いませんか。定年前後の人が『小僧』になれる場所が、地方にはある。世話を焼いてもらえるし、向こうも小僧を探しているのですよ」

 それゆえに「私は大企業の部長にまでなった男だ」などと偉そうにしてはいけません、と警告する中川さん。見栄を張らない定年ライフを送ろう。(文/AERAムック編集部・白石圭)

※週刊朝日MOOK『定年後からのお金と暮らし2021』より