由美子さんの夢に秀和君が現れるようになったのは、震災から1、2カ月たったころだ。秀和君は困った様子で、由美子さんに「早く行くよって連れて行こうとしても、お母さんがいないって泣いて動かないんだ。どうしよう」と話しかけてきた。

「身近に小さい子はいないのに、なぜかそう思ったの。面倒見がいい子だったから、津波に巻き込まれたとき、近くにそれくらいの年の子がいたのかもしれないね」

 由美子さんの夢は、映画のワンシーンのように短い。震災から1年後の2012年3月17日に見た夢もそうだった。

 秀和君は、入学する予定だった中学校の昇降口に、クラスメイトと並んでいた。

「中学生になる前に逝ってしまったから、制服を着た姿を見せに来てくれたのかな」

同じ年の8月16日に見た夢は、青いノースリーブのシャツを着て、白いビニール袋を持った秀和君が、見覚えのない山のあぜ道を歩いていた。

「どこに行くの?」と由美子さんがたずねると、汗だくの秀和君は「図書館に本を返しに行く」と答えた。暑さを心配した由美子さんは、秀和君に「車で送って行くよ」と呼びかけたが、「いい、いい」と彼は歩いて行ってしまった。

 このころから由美子さんは、秀和君が夢に出て来る感覚はあるのだが、はっきりとした姿で捉とらえることは少なくなっていった。

 由美子さんには、夢で秀和君の姿が見えなくなってきたことに、ほっとする気持ちもある。

 夢は必ず覚める。目覚めたときに秀和君がいない現実を突きつけられるのは、とても辛い。それよりも、目覚めて過ごしている時間のほうが、姿は見えないが、秀和君がそばにいると感じられる。由美子さんは言う。「そのほうがずっといい」

(同書「神様がちょっとだけ時間をくれた」より抜粋)

■心の中にいつも妹がいる

 紫桃朋佳(しとう・ともか)さんは、石巻市立大川小学校の5年生だった妹の千聖(ちさと)ちゃん(当時11歳)を津波で亡くした。

 東日本大震災の地震発生時、中学1年生だった朋佳さんは先輩たちの卒業式を終え、自宅に母親と祖父母、中学3年生の兄、兄の友人と一緒にいた。

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「千聖は、学校にいるから大丈夫」