この記事の写真をすべて見る
朝日新聞「GLOBE+」で報じられた震災後にタクシー運転手が出会った幽霊の話や、NHKの「天国DJ」などで注目された東日本大震災遺族たちが見る「夢」の記録をはじめ、被災地でフィールドワークを続ける研究者がいる。社会学者で、現在は関西学院大学教授の金菱清さんだ。2020年3月まで東北学院大学で教授を務め、その際に立ち上げた「震災の記録プロジェクト」を現在も主宰する。東日本大震災が発生したすぐあとから、被災者の心の機微について考えるフィールドワークを続けてきた。
金菱さんが被災者の見ている「亡き人との夢」について考え始めたのは2016年のことだ。翌年からゼミ生と一緒に被災者の方々に聞き取り調査を始め、約1年をかけて集めた証言を1冊の本、『私の夢まで、会いに来てくれた』にまとめ、2018年に刊行。今年文庫化された。
著書のなかで、金菱さんは「亡き人との夢」について、「断ち切られた現実に対して、死者となおもつながり続けることができる希望(のぞみ)なのだ」という。大切な人を亡くしたとき、私たちはどのような夢を見て、何を思うのか――。
金菱さんに著書のなかから珠玉のエピソードを紹介してもらった。
* * *
■「制服を着た姿を見せに来てくれたのかな」
三男の秀和君(当時12歳)を津波で亡くした鈴木由美子さんは、夢の記録をとっていた携帯電話を愛いとおしそうに眺めた。
「震災からしばらくは、秀和を忘れたくないから、携帯電話のメールをメモ代わりに夢の記録を書いていたの。でも、だんだん夢の感じが変わってきて。秀和がいる気配は感じるんだけど、姿が見えないのよね。それで、書かなくなったんじゃないかな」
由美子さん一家が震災前に住んでいたのは、石巻湾に近い海沿い。女手ひとつで、専門学校生の長男、中学生の次男、小学六年生の秀和君を育てていた。
地震が起きたあと、家族全員が集まり、近所に住んでいた妹家族と一緒に3台の車に分乗し、避難場所に向かっていた最中、津波に襲われた。車ごと波に巻き込まれ、ひっくり返され、家々の屋根や柱にぶつかりながら、息をつけるような状態になったとき、秀和君だけ姿が見えなくなっていた。