「一日、調べ物をして、1行しか書けないこともありましたが、書くのは楽しかったです。資料は、持っている人から譲ってもらったり、オークションで落札したり。図書館などにも通いました」
コロナ禍で外出禁止になっていた時間を執筆にあてられたのだそう。
大相撲と鉄道ファンは、間違いなく読んで面白い本書だが、実はファンでない人にこそ薦めたい驚きと面白さに満ちている。
「本を読んで大相撲を観てみよう、と思ってもらえたら嬉しいです。一日も早くコロナが収まり、以前のように、お客様をお迎えしたいですね」
(ライター・矢内裕子)
■HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香さんオススメの一冊
『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』は、孤独な主人公の元に突如やってきた人生讃歌を描いた一冊。HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香さんは、同著の魅力を次のように寄せる。
* * *
年の瀬も迫る北海道の東端で、水道管の水も凍るボロアパートに暮らす「俺」と、白い箱。それは博打打ちだった父親のお骨で、夫に苦労させられた母親が、黙って置いていったものだ。
勤め先のキャバレー「パラダイス」の寮でもあるボロアパートは、その酷い状態ゆえ、彼以外に寝泊まりする者はいなかった。だが、年末年始のステージを盛り上げるべくやってきた「マジシャン」と「ブルーボーイ」と「ストリッパー」が、静かすぎた彼の生活を一変させる。ネズミやカビや寒さに耐えかね、3人が「俺」の部屋へと集まるからだ。そしてストーブの上の鍋から、インスタントラーメンを啜(すす)る。煩わしさは、いつの間にか心地よさに変わっていた。
血の繋がらない家族を知ることで、血の繋がった家族との距離ができる。もう彼は、どこへだって行けるだろう。
※AERA 2021年3月29日号