AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
現役の幕内格行司であり、鉄道ファンの著者が披露する、大相撲と鉄道の意外な関係。木村銀治郎さんによる『大相撲と鉄道 きっぷも座席も行司が仕切る!?』は、相撲列車と呼ばれる地方への移動や切符手配の技、行司の仕事もよくわかる、初心者にも面白い一冊だ。著者の木村さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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土俵の上で、勝負を見定め判定をする──誰もが知っている大相撲の「行司」だが、実は土俵を降りてからも実にさまざまな仕事があるという。
そのひとつ、「輸送係」に従事しているのが、『大相撲と鉄道』の著者、幕内格行司の木村銀治郎さん(46)だ。「年6回の本場所と地方巡業がある大相撲は、一年を通じて日本全国をめぐっています。力士をはじめとする総勢は280人。移動に使う列車は『相撲列車』と呼ばれ、列車の手配、車両割、力士の座席指定などを行うのが輸送係の仕事です」
一行には、力士、親方、行司、呼び出し、床山のほかにも、若者頭、世話人、トレーナーなどのスタッフがおり、鉄道だけでなく貸し切りバス、船舶、航空機などありとあらゆる手段を使って、大移動する。経済的でスムーズな移動はもちろん、大柄な力士たちが駅構内で迷惑にならないような配慮など、なんとも気の張る仕事だが、銀治郎さんは「相撲列車」の驚くようなエピソードも交えつつ、小気味よい文章で紹介してくれる。
「子どもの頃から鉄道と大相撲が趣味でした。最初にはまったのは駅弁の掛け紙蒐集(しゅうしゅう)で、架線や信号機にも夢中になりました。実家は墨田区向島でしたので、中学生になると朝8時に国技館で本場所の当日券を買って登校し、下校時に観戦していました」
中学1年の頃には「行司になりたい」と目標を定め、卒業時に峰崎親方(元幕内三杉磯)のもとへ入門、初土俵を踏んだ。
「いったん興味を持つと、とことん掘り下げてしまう性格なんですね」
そう語る銀治郎さんはノンフィクションを読むのが好きだという。その言葉通り、本書の執筆にあたっても、関係者に話を聞くなど、確認に時間をかけた。