「教育入院や外来の教育プログラムで十分な指導を受けてからおこなうので、難しくてできないなどということはありません。ただしまれに血小板の減少という重篤な副作用が出ることがあるので、治療開始から1カ月間は、こまめな血液検査が不可欠です」(杉医師)
ヘパリン注射は、超音波検査で胎嚢(胎児が入っている袋)を確認できる妊娠5~6週ごろから始め、出産直前まで続けていく。在宅自己注射ができるようになって患者の身体的、時間的な負担が軽減。さらに2012年から健康保険が使えるようになって経済的な負担も軽減し、治療を受けやすくなった。
一方、「子宮形態異常(子宮の奇形)」が原因の不育症は、手術で治療できる場合がある。
日本医科大学病院産婦人科教授の竹下俊行医師はこう説明する。
「子宮奇形のほとんどは症状もなく、日常生活に影響を与えることはありません。本人も気づいておらず、不育症の検査をして初めてわかったというケースもたくさんあります。さまざまな奇形の中でも、子宮内に『壁』があり、内部が左右に分かれている『中隔子宮』(イラスト)は、流産につながりやすい」
トラブルのもとになっているであろう壁を取ってしまおうという手術が、「子宮鏡下中隔切除術」だ。子宮口から細いカメラ(子宮鏡)と手術器具を入れて電気メスで壁を焼き潰し、本来の空間を作る。おなかを切らないので傷が残らず、からだへの負担も少なく済む。
「厚生労働省の不育症研究班がおこなった調査では、中隔子宮と診断された後に手術をせずに妊娠、出産ができた人は61・5%だったのに対し、手術を受けた場合は81・3%が出産に至ったと報告されています。ただし手術の効果が期待できるのは中隔子宮のみで、双角子宮などほかの子宮奇形に手術は勧められていません」(竹下医師)
■ 精神的なサポートで流産の不安を軽減
不育症の約65%は検査をしても原因がはっきりしないため、治療をしないまま次の妊娠に臨まざるを得ない人は多い。また、原因がわかっても治療法がない場合もある。治療ができた人も、流産を経験しているだけに妊娠を手放しで喜ぶことができず、「また流産してしまうのでは」と出産するまで不安がつきまとう。