親に捨てられた善逸は、桑島の弟子になるまでの間、ずっと孤独だった。弟子入りしてからも寂しさは続き、相手の愛情を確認しようとして、泣きわめいて、駄々をこねた。
<親のいない俺は 誰からも期待されない 誰も 俺が何かを掴んだり 何かを成し遂げる未来を夢見てはくれない>(4巻・第34話「強靭な刃」)
これが物心ついてから、ずっと見てきた、善逸の「現実」だった。しかし、善逸は桑島の厳しい訓練の中で、隠れたり、逃げ出したりしながら、桑島の愛情を探り、彼の「心」を信じようとした。誰が善逸を裏切っても、「でもじいちゃんは 何度だって根気強く 俺を叱ってくれた」「俺を見限ったりしなかった」と、桑島のことを信じ続けた。死闘の強烈な苦痛の中でも、善逸の頭には、桑島の言葉が繰り返し聞こえる。
「1つのことを極めろ」
善逸には夢があった。「じいちゃんのお陰で強くなった俺が たくさん…人の役に立つ…夢」そして、「じいちゃんの教えてくれたこと 俺にかけてくれた時間は 無駄じゃないんだ」と証明すること。意識が失われそうになる中でも「諦めるな!!」という桑島の声が聞こえる。「じいちゃん頼む じいちゃん じいちゃん じいちゃん!!俺の背中を蹴っ飛ばしてくれ!!」、戦えなくなりかけた時、善逸は心の中で、死んだ桑島のことを何度も何度も呼んだ。
■人を信じることが、マヌケだと言われる世の中で
いつの時代であっても、人を信じることは、時には「マヌケだ」と言われる。他人にだまされるな、だまされるのは愚か者だ、注意深さが足りない、自己責任だ。こんなふうにだまされた側の人が、非難されるのを聞いたことはないだろうか。そんな厳しい現実にあっても、何度だまされても、善逸は“信じること”をやめようとしない。
「俺は自分が 信じたいと思う人を いつも信じた」という善逸のセリフは、私たちの心を変えたのではないか。傷ついても信じることの尊さを、もう一度思い出させたのではないだろうか。