季実子さん(仮名・85歳)は、都心の一等地に豪邸を構えていたが、「主人を失って、一人で大きな家に暮らすのは不安」という思いから、3年前に横浜から車で20分ほどのところにあるサ高住に入居した。3人の子どもたちには相談しなかった。
「若い人たちの負担になりたくありませんでした。私が決めて入りましたから『文句は言わせません』という思いです」
施設の決め手は自然環境の良さ。友人の紹介だった。
「若いころから一人で本を読んだり音楽を聴いたり観劇をしたりが好きでした。今は好きなことを好きなようにできる。その上で誰かがいるという安心感もある。そこが魅力」
老朽化が進んでいた都心の一軒家は大規模修繕をし、1階を賃貸中で、2階に娘が暮らしている。
「私の場合は完全な家じまいではありませんでしたが、大量のものを捨てる作業は大変でした……。子どもが小さいころからのものがたくさんあって。家財の処分も大変。入居者の方からも『家じまいが大変だった』と聞きます」
誠子さん(仮名・82歳)も自らの意思で家を出て、サ高住に移り住んだ。きっかけは単身赴任していた娘婿が戻ってきたことや、同居していた孫の成長などもあるが、「死ぬまでの何年かの自由で静かな時間を自分のために過ごしたい」という思いが強かった。多忙な娘に代わって孫を育て、娘一家のために全力で生きてきた。
「娘の定年は70歳。そのころ私は96歳。面倒なんて見させられない。やりがいのある仕事についている娘にはずっと現役でいてほしいから」
在宅介護で、介護する側もされる側も「みじめだった」身内を見てきたというのもある。
施設(東京都文京区内のサ高住)はすでに決まっていた。友人が何人も入居しており、「入るならここしかない」。
娘夫婦を前に「そろそろ私の人生、自由にここで過ごしてみたい。ここに入ります」と伝えると「お母さんの人生設計だったらいいんじゃない」
と返ってきた。娘だけでなく孫も応援してくれた。