法的なトラブルを生じたわけではない。だが、死後離婚は時に周囲の関係者に大きな傷痕を残す。

「姻族関係終了届で義母との関係を断ち切ったことを後悔される方もいる」

 そう話すのは男女問題専門家として計3万件以上の相談にあたってきた行政書士の露木幸彦氏だ。

 その相談者の女性は、亡くなった夫の浪費癖と不倫問題を理由に、死別後に姻族関係終了届を提出。義父が夫の女性問題を「男はそういうものだ」と容認していたことも、決定打となった。

 だが、義母との関係は決して悪くはなかったという。義父が亡くなり、亡くなった夫の妹の勧めで義母が介護施設に入れられると、相談者は苦悩するようになった。

「その施設は職員による虐待の噂が絶えないところだったようで、義母がアザをつくっていることを相談者は親戚づてに耳にしたようです。それで、後見人になっている義理の妹から義母の介護の権限を取り戻すことはできないか?と相談に来られたんです。姻族関係終了届を提出している以上、相談者と義母はアカの他人。まず不可能だとお伝えしたところ、肩を落とされていました」(露木氏)

 このように死後離婚後のトラブルは水面下で増えているという。

 さらに、コロナ禍の影響で死後離婚の火種が増えているとされる。

「死後離婚される方の大半は、死別される前から離婚を考えていた方です。コロナ禍で夫婦ですごす時間が増えた結果、ストレスがたまり、コロナ離婚に至るケースが出てきているように、夫婦間のトラブルが増えているわけです」(同)

 一方で、デイサービス事業者がコロナ対策を名目に利用を制限しているため、妻が義父母の介護、ないしは衣食住の面倒を見るケースが増えているという。その負担増が苦で、夫が亡くなった後の生活を不安視する女性が増えているのだ。

「死後離婚する場合には、亡くなった旦那さんの弟夫婦など、義父母の引受先となる人を確保しなくてはなりませんが、リモートワークの増加で両親の面倒は見やすくなっている。そうした環境の変化もあって、コロナ禍で死後離婚予備軍が増えている可能性があります」(同)

 コロナは人の生き死にのみならず、夫婦と親族との関係をも変えようとしているのかもしれない。(ジャーナリスト・田茂井治)

週刊朝日  2021年4月9日号