夫の母と高原氏との関係は以前から冷え込んでいたため、死後離婚するのに抵抗はなかったという。ただ、姓を変えることには若干のためらいがあった。
「多感な年ごろの娘が嫌がるかもと思った。でも、話し合ったら、娘も復氏届を出すことに賛成し、私の戸籍に入ることになったのです」
復氏とは、配偶者の戸籍から抜け、旧姓に戻すこと。姻族関係終了届と同様、判子一つで届け出ることが可能だ。子供も同様に姓を変更できるが、15歳以上の場合は家庭裁判所での意思確認が必要。高原氏の娘は高校生だったため、裁判所への申し立てを経て高原氏の戸籍に入ったという。
実は、親子間のコミュニケーション不足は、死後離婚後にトラブルを引き起こす場合がある。
「うちには父と母、私と妹、そして父方の祖母が一緒に暮らしていたのですが、若くして父が亡くなり、その後は母が祖母の面倒を見ていました。その祖母が2年ほど前に肺炎で亡くなったときに、母が死後離婚していた事実が発覚したのです」
こう話すのは30代女性のAさんだ。自分のあずかり知らぬうちに、母親が父方の親族との関係を断ち切っていたという。
「祖母の葬儀のときに親戚が母に対して『旦那さんのお墓に(祖母が)入ることだし、しっかり面倒みてね』と言ったら、母が突然『私はもう姻族関係終了届を出してあるから関係ないのよ』とぼそり。それで親戚は激高して収拾がつかなくなってしまいました」
Aさんの祖母は金遣いが荒かったという。怪しげな霊感グッズを購入して、母親が代金を請求されることもあった。金銭感覚の違いから、たびたび母親と祖母が喧嘩するのを目の当たりにしてAさんは25歳で実家を離れた。その間に、母親は死後離婚していたのだ。
「父との関係を断ち切りながら祖母の面倒を見ていた母の行動には矛盾があります。そもそも、母が姻族関係終了届を提出しても、私や妹と祖母との関係は切れない。父方の親族に対する、母と私や妹の関係に齟齬(そご)が生じるのに、なぜ私たちに何の相談もしなかったのか? 怒りがふつふつと湧いて、私と母の関係もこじれてしまいました」