AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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子のためなら自分の人生を犠牲にすることもいとわない父親と、自閉症スペクトラムを抱える息子を主人公にした物語──。脚本を担当したダナ・イディシスの父親と自閉症の弟をモデルにした映画「旅立つ息子へ」は、父子の絆を描いた感動作かと思ったら、そう単純な話ではなかった。
アハロン(シャイ・アヴィヴィ)は、自閉症スペクトラムを抱える一人息子のウリ(ノアム・インベル)と田舎町でのんびり暮らす。アハロンにとってウリは生きる喜びだ。だが、別居中の妻タマラ(スマダル・ヴォルフマン)は、過保護なアハロンの子育てに大反対。息子の自立を促すため、全寮制の特別支援施設への入所手続きを進める。
裁判所も定収入のないアハロンを養育不適合と判断。入所日が決定する。ところが、突然の別れに戸惑ったウリは寮へ行く途中でパニックに。そこで、アロハンはウリとあてもない旅に出るのだが……。
執筆に6年。スクリプトエディターとして脚本にもかかわったニル・ベルグマン監督は本作を「父親の自立の物語」と話す。
「ダナが脚本を書き始めたのは、弟が13歳の時。『父親と弟が親離れ・子離れする時がきたら、二人はどうなってしまうんだろう』というところに一番インスピレーションを受けていたと思います。でも、僕は脚本を書いていた時から、父親の物語だと理解していました。父親は息子の陰に隠れて自分の人生から、キャリアから逃避しているのかもしれない、(二人の関係から見えてくる)真実はもっと複雑なんだと。そうしたことを描くために、父親の過去にどのようなことが起こって今に至るのかということも少し描かなければいけないと意識していました」
その言葉通り、旅を進めるうちにアハロンの過去が見えてくる。最初に訪れたベエルシェバに住むエフィは、ニューヨークの名門、パーソンズ美術大学で一緒に学んだ仲。そこでアハロンがいかに優秀だったかが明かされる。また、長年仲たがいしてきた弟のアミールのもとでは、アハロンが才能あるグラフィックデザイナーだったにもかかわらず、自分自身でうまくいかないと逃げ出してしまう性分だったことも明らかになる。