二人だけの生活に閉じこもっていたアハロンが、旅をしながら守るべき存在だった息子の成長に気づいていく。その極め付きがラストシーンだ。息子にすべてをささげてきたアハロンが浮かべる、複雑な表情に胸が締め付けられる。
「僕にとって、映画はエモーショナルなものであるべきだし、人の心を動かすべきものだと思っています。何も動かなかったなら何かを見過ごしているのではないかと思う。観客も映画を観る時はエモーショナルな旅をしたかのような経験をすべきだと思っています。ただ、僕は映画作りでユーモアも大切にしているので、(この映画に)ユーモアもあるよとぜひ伝えてくださいね」
◎「旅立つ息子へ」
自閉症スペクトラムを抱える息子と父親の絆を描く。東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
■もう1本おすすめDVD「ギルバート・グレイプ」
「旅立つ息子へ」でウリ役を演じたノアム・インベルが健常者だと聞いて思い出したのが、「ギルバート・グレイプ」(1993年)だ。レオナルド・ディカプリオが知的障がい者を演じて、米アカデミー賞助演男優賞に初めてノミネートされた。
ギルバート・グレイプ(ジョニー・デップ)は、二人の姉妹と知的障がいのある弟アーニー(ディカプリオ)、そして過食症の母親と5人暮らし。町の食料品店で働きながら家族を支えていた。24年間一度もアイオワ州の小さな町から出たことがないギルバートだったが、旅生活を続けるベッキー(ジュリエット・ルイス)と出会ったことで、新しい世界へと踏み出す。
レオ様の人気爆発前の映画だが、「アーニー役の俳優は障がい者が演じていると思っていた」と何人にも聞いた。実際、手指の動きから唇の結び方、話し方、走り方に至るまで一つひとつを繊細に表現。邪気のない笑顔は見る人を幸せな気持ちにする。ジョニーとレオが兄弟役という夢のようなキャスティングもあって、ジョニーファンだった筆者にとって忘れ難い一本。ストリーミングで見られる今もVHSを捨てられない。
◎「ギルバート・グレイプ」
発売・販売元:キングレコード
価格1900円+税/DVD発売中
(フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2021年4月5日号