3000本売れればヒットと言われるAV業界のなかで、“女性向けAV”が1万本以上のヒット作品を出している。そこに出演する男優「エロメン」が、女性たちの熱い視線を集めている。一番人気の一徹の撮影現場に本誌記者が密着。人気エロメンと監督に、女性を萌えさせるセックスの極意を教わった。
「愛のこもった目をしてキス……と思いきや、鼻なめ!」「ここは甘いチューではなく、“ふざけチュー”で」
10人近いスタッフに見守られながら裸の男女がベッドの上でじゃれあう。指示を出すのは、女性向けAVレーベル「シルクラボ」のプロデューサーで女性監督の牧野江里氏。
この日撮影されていたのは、「付き合って1年以上たつけど、次の日に近所から『夜騒がしい』と苦情がくるようなバカップル」のラブシーン。「女性のためのAV」だから、男優への指示が圧倒的に多い。
「手は彼女の腰に添えて」「服を脱いだら、肌と肌の密着感を楽しむ彼氏!」
服の脱がせ方から、細かいしぐさ、はたまたカメラに映りこんだ足の指の皮にまで監督の目がいく。アラサーの記者(女)が聞いても恥ずかしくなるようなキザなせりふ、美しくてお尻までつるつるの男優の裸……。現場は「いやらしさ」とは程遠く、「健全さ」が際だつくらいだ。
業界初の“専属男優”である一徹は、女性向けAV人気の火付け役。有名大学法学部を卒業後、公認会計士になるべく専門学校に通う勉強漬けのなかで、アダルトサイトで見つけた男優募集に応募し、業界入り。既婚者で、パパでもある。
「AV男優といえば加藤鷹さんとかのイメージがありますが、僕がデビューした10年前は、もう男優の個性が必要とされない時代だったんです。不自然な体位が増え、ドラマシーンが早送りされるため、いきなり男女の絡みから入る作品も出てきた。セックスまでの過程を丁寧に作るという“女性向けAV”の話を聞いたときは、正直、売れるのかなぁ、とは思いましたよ」
そんな女性向けAVを仕掛けたのが、先の牧野氏だった。新卒でアダルトビデオメーカーに入り、2008年に女性向けAVのプロジェクトを立ち上げた。勝算はあった。後押ししたのは既存AVへの女性の「大ブーイング」だ。
「彼女を気持ちよくさせたくてAVで研究したっていう男性が多いじゃないですか。気持ちは非常にありがたいけど、学ぶ部分がおかしいから、女性が痛い思いをしている。そんな男女の溝を埋められたらいいと思ったんです」
そこで、男優として指名したのが、一徹だった。
「見た目は草食っぽいのに、性欲はバッチリ。女の子が一番うれしい“ロールキャベツ男子”。AVを見たことのない女性が初めて手に取る作品をと思っているので、AV男優っぽくない人が条件だったんです」
そして、最大の特徴はコンドームをつけるシーンが必須なこと。当初は啓蒙(けいもう)的な意味だったが、男性が彼女のことを考える優しさが伝わってきた、と好評だったという。ちょっぴりツッコミたい部分もあるが、その世界観、「少女マンガ」そのものなのだ。
「“密着感”を大事にしているので、例えば、正常位でも男性の体は離さず、前傾で女性の体にくっつくようにします。もし片手が空いたらどこかに触れて、目があったらキスしてもらいます」(牧野氏)
キスも、ただすればいいというものではないらしい。
「不自然なキスはダメ。ゆっくりついばむように、唇の感触を確かめながら、ソフトにゆっくり楽しんでいく。それに、キスだけでなく、優しく包み込んだり、頭をなでなでされたい子がすごい多いんですよね」(一徹)
※週刊朝日 2013年5月31日号