到着後3日間の公式練習は、ジワジワと調子が上がっていった。全日本選手権の演技同様に、キレ味のあるジャンプが光り、コーチたちと談笑する姿も。
「とにかく今自分ができることは、ショート、フリー、エキシビションの三つのプログラムを、この世の中に対して僕なりのメッセージのあるものにできたらいいなと思います。出発するまで、自分自身いろいろと思うところはあったんですけれど、滑るからには、やっぱり何かしら意味のあるものにしたいな、とは思います」
いろいろ思うところ……。それは、地震のことや、仙台で感染者が増えていること、そして挑戦している4回転アクセルのことだ、と羽生は吐露した。
「全日本選手権のあと、けっこう4回転アクセルに力を入れてやって、跳び切れなかったのを苦しく感じていました。4回転半がかなり大きな壁なので、どうやって回転数を増やしていくのか、高さや耐空時間を延ばしていくのかを考えて、ウェートトレーニングはしていませんが、ジャンプ練習で必要な筋肉がついて、体重も増えましたし、遠心力を取り込めるようになったと思います」
最も4回転半に近づきつつあったという羽生。しかし今回は準備が間に合わなかった。
「自分のなかでは、2月末までに降りられなければ世界選手権で入れられない、1本でも降りたら入れる、と決めていました。2月末までに降りられず、さらに3月に延長して死ぬ気でやって、他のジャンプをやらずにアクセルだけ2時間ぶっ続けという日もありました。入れないと決めたのは出発の3日前。自分が目標にしていたものに届かなかったので、つらい気持ちがありました」
■滑走直前に現れた
笑顔の裏にさまざまな思いを押し込めて、ショート当日を迎える。曲はロック「Let Me Entertain You」。4回転サルコー、トーループを成功させると、観客のいないアリーナに視線を送り、クールに演じ切った。構成や音楽解釈では10点満点を出したジャッジも。106.98点での首位発進を決めた。