現在は、患者に何かを提案する際は常に、「このことは本当に患者さんの役に立つのか、自己満足ではないか?」と自問自答を繰り返す。

「相手の気持ちがわからない間はもどかしいですが、『あなたを気にかけているし、手伝えることがあれば何でも言ってほしい』と伝えて、見守るほうが無難です」(清水医師)

 患者にとってもっとも身近な存在である家族も、「寄り添いハラスメント」とは無縁ではない。前出のグリーンルーペプロジェクト発起人代表である轟(とどろき)浩美さん(58)は、自身の経験をこう振り返る。

「今思うと、私も亡くなった夫に対してハラスメントをしていたかもしれません」

■ニンジンジュースを出し続け 夫の叫びで目が覚める

 轟さんは16年、スキルス胃がんで夫の哲也さんを54歳で亡くしている。主治医から「余命は月単位」と言われたのは13年12月だった。

「私だけは夫の命をけっして諦めない。どんなことがあっても彼を助けようと思いました」(轟さん)

 自分の料理や健康管理に原因があったのではないか、そんな自責感情にも苦しめられた。その失敗を取り返そうと、轟さんは告知後の半年間で、“がんに効く”というキノコや海藻類、無農薬のニンジンジュースなど10以上の民間療法を手当たり次第に試した。

「本を乱読して探すんですが、周囲からも善意で『〇〇ががんに効くらしい』という情報が寄せられました。私の情報と重複するものがあると、『やっぱり○○はいいんだ!』と思い込んだりして。玉石混交の情報にどんどん溺れていきました」(同)

 夫は妻がすすめるものを、黙々と食べ続けた。だが、胃がんの症状が出る中、ニンジンジュースを毎日2、3杯飲み続けることは、体の負担でしかなかった。抗がん剤治療の副作用で口内炎だらけになり、痛みで口を開けられないこともあった。それでも轟さんは、毎日何本ものニンジンをミキサーにかけ続けた。痩せて体力が落ちた夫はある夜、ニンジンジュースを作る轟さんに向かってこう叫んだ。

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