19年に谷島さんが大阪市内に開いた不定期営業の「がんについて語らなくても、隠さなくてもいい」カフェバーでも、この話になった。善意なのであからさまには反論しづらい。だから「頑張ります」「ありがとうございます」と答えて、相手の感情を損ねずに無難に対応するしかない、というのが経験者の感想だった。
■相手の心に土足で踏み込む 自己満足だと気が付いた
そこで谷島さんは、こうした周囲の言動を「寄り添いハラスメント」と命名し、がんの啓発活動を続けるグリーンルーペプロジェクト主催のウェブセミナーで今年2月に発表した。
「寄り添うことは肯定的な印象が強く、ハラスメント的な側面ががん経験者以外にはなかなか伝わりづらい。言葉を作ることで社会に広めていければと思いました」(谷島さん)
身近にがんなどの病気の人がいた場合、自分の気持ちを押し付けず、いざというときに話しかけやすい雰囲気を作り、相手が不安に思う点を取り除いてあげるだけで寄り添いにつながると、谷島さんは語る。
「入院中の僕は、職場や家庭を失うかもしれないことが、最大のストレスでした。それに対して妻は『何があっても支えるから』、信頼する上司は『お金のことも含めて何でも相談しろ』と言葉をかけてくれました。それですごく救われました」
がん研究会有明病院腫瘍精神科部長の清水研(けん)医師(49)は、このセミナーに出席し、「寄り添いハラスメント」という言葉を広めていく意義を感じたという。
「そもそも他人に寄り添うことは、とても難しいこと。善意であるために歯止めが利きにくく、時には相手を傷つけてしまうことさえあります。それらの注意点を社会で共有する上で、訴求力のある言葉だと思います」
精神科医としてがん患者や家族を支える清水医師もまた、かつては「患者に寄り添うには、本人の気持ちを聞き出すことが必要」と思い込み、相手の心に土足で踏み込んでしまったという。
「患者さんのために試行錯誤してきたつもりでしたが、実際には自分が役に立てていないことを認めたくなかったのではないか、ただの自己満足ではないかと気づいたんです」