4月から、KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督に就任した長塚圭史さん。自ら演出する舞台「王将」では、1階の広場に特設劇場を作るという。芝居で世の中を明るくしたい。そんな思いが胸にある。
>>【前編/長塚圭史「観客と対面しないと演劇は成立しない」 コロナ禍で痛感】より続く
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日本国内の劇場ではそれぞれの判断で舞台の上演が再開される中、昨年12月に、この4月から長塚さんがKAAT神奈川芸術劇場の芸術監督に就任することが発表された。2011年にオープンした劇場は、初代の芸術監督が宮本亞門さん、次が白井晃さん。この3月には、長塚さんが芸術監督になる21年度のシーズンラインアップも公開されている。
「白井芸術監督は、演出家を主体にしてラインアップを決めていったのに対し、私は、作家や作品を先行して決めています。日本の優れた劇作家の戯曲を現代の視点で掘り下げて上演していきたいという思いがあります。新旧含めて日本語の戯曲に向き合うことで、自分たちの国の歴史を見つめる。歩みを知り、今なぜここにいるのかを知ることにもなる。それこそが海外の同時代へと扉を開く。非常に国際性のあることだと信じているんです」
長塚さんは、08年の9月から1年間、文化庁の新進芸術家海外研修制度でイギリスに留学している。その際、イギリスの伝統ある劇場と芸術監督との密な関係を目の当たりにし、刺激を受けた。
「KAATで自由にやりたいことを書き出したら、ノートの見開きぐらいじゃ到底収まらないですよ」と笑顔で言いながら、急に深い落ち着きを持った表情になって、「でも」と続けた。
「KAATは県が運営する劇場です。この劇場をどういう劇場にしていくか。どうしたらもっと多くの人に開かれた劇場になるだろうか。今回のラインアップはそこからスタートしています。KAATは、この10年間で演劇を愛好するお客様や演劇関係者に知っていただけましたが、考えてみればそれは実は狭い世界のことです。これからはまだ演劇を見たことのないお客様にも、興味を持って気軽に遊びにきていただけるような劇場にしていきたい」